2025.04.24
JFR×コメ兵が新会社設立。「モノ」と「ときめき」を循環させて価値共創を実現

取材・執筆:原田直子 編集:末吉陽子 撮影:田ノ岡宏明
響き合う企業理念が、リユース市場の新しい可能性をひらく
――はじめに、JFR & KOMEHYO PARTNERS のビジョンと事業内容を教えてください。
JFR & KOMEHYO PARTNERS 代表取締役社長 下垣徳尊(以下、下垣):当社は「人生のステージとモノの価値をつなぎ、笑顔社会を実現するサーキュラーステーション(循環経済の拠点)へ。」をビジョンとし、持続可能な社会の実現を目指して設立した合弁会社です。具体的な事業としては、百貨店を中心としたJFRグループの商業施設にブランド買取専門店「MEGRÜS」を出店し、お客様から買取ったブランド品などの商品をすべてコメ兵に卸売りします。それらの商品は、コメ兵がKOMEHYO店頭などで販売します。
――百貨店が自らリユース事業を手掛けるアイデアは、いつどのようにして生まれたのでしょうか?
下垣:2022年3月ごろに生まれました。コロナ禍をきっかけに死生観を見つめ直す人々が増え、所有物を整理しようという終活意識が高まる中、百貨店のお客様にもリユースのニーズがあることに気づいたことがきっかけです。ただ、われわれには買取りのノウハウがありません。そこで、コメ兵さんにお声がけをしました。
MEGRÜSの発案者でもある下垣社長。顧客ニーズを敏感に察知し、既成概念にとらわれない発想が新会社設立の発端になっている
――共同での会社設立は、JFRおよびコメ兵にどのような価値をもたらすのでしょうか。
JFR 代表執行役社長 小野圭一(以下、小野):JFRグループは2030年の在るべき姿として、3つの共創価値をステークホルダーと一緒につくり上げていく「価値共創リテーラー」を掲げています。3つの共創価値とは、感動を共につくる「感動共創」、地域と共に栄える「地域共栄」、環境と共に生きる「環境共生」です。
今回の新会社で行おうとしているのは、資源の廃棄を極力減らしながらお客様の需要に応え、「環境共生」を体現しながら、自分たちの収益にもつなげる取り組みです。
これまでJFRとお客様は、「売り手」と「買い手」という向き合う関係でした。しかし、MEGRÜSを介することで、お客様と同じ方向を見て、一緒に環境課題の解決に取り組む「価値共創パートナー」という関係になる、ここに大きな魅力を感じています。
「お客様と価値共創パートナーになることは、新たな関係を築く試みであり、価値共創リテーラーへの大きな一歩になるはずです」と語る小野社長
株式会社コメ兵 代表取締役社長 石原卓児(以下、石原):コメ兵の事業は、創業者である祖父が戦争から帰還した際、衣食住を失った中で「不要になったものを必要とする人へ届ける」という、その時代を生き抜く手段として取った行動が起点になっています。
現在のグループのビジョンも、「モノは人から人へと伝承(リレー)され、有効に活用(ユース)されてこそ、その使命を全うする」という独自の概念に基づき、「リレーユースを思想から文化にする。」を掲げています。時代は変わっても循環型社会に貢献し、買取りと販売、双方のお客様からありがとうと言っていただけるような商売をするのが、私たちの基本姿勢です。
モノが充足する現代では、リユース市場の価値向上が求められます。同時に、これまでリユースを利用したことのない方への効果的なアプローチも必要です。
JFRさんと共同で会社を立ち上げたのは、これまで私たちがあまりリーチできずにいたお客様との接点をつくりたいと思ったからです。また、接客のプロによるサービスを提供していただくことで、リユースの体験価値がさらに豊かになると確信しています。
コメ兵の4代目・石原社長。社名は祖父の実家が営んでいた米店の屋号が由来。写真右上は米店の前掛け、右下は1947年創業当時のコメ兵
小野:リユース事業を始めるにあたり、プロジェクトメンバーからは、最初から「どうしてもコメ兵さんと組みたい」という熱量で提案を受けました。
折しも渋谷パルコの別館にコメ兵さんの店舗(現KOMEHYO SHIBUYA)を出店いただくことが決まっていたタイミングで、パルコの店長からも「コメ兵さんは素晴らしいパートナーだ」という話を度々聞いていました。コメ兵さんの鑑定力は業界で圧倒的に秀でており、鑑定力に自信があるからこそ高く買取ることができて、結果としてお客様の満足につながっています。しかし、それ以上にわれわれの決断を後押ししたのは、お互いの会社の根底に流れる価値観や思想が似ているということでした。
下垣:私も「コメ兵推し」ですが、打ち合わせの中でコメ兵さんの精神を垣間見る瞬間がありました。一般的に考えると、なるべく安く買取り、なるべく高く売ったほうが利益を得られます。しかし、コメ兵さんは可能な限り高い買取価格を設定しようとします。なぜなのか尋ねると、「お客様に喜んでいただくために最大限の努力をしているからです」とのこと。この精神は、JFRの社是「先義後利」そのものだと感じました。
石原:1回の売買で利益を得ることはもちろん大切ですが、お客様に「来てよかった」と思っていただけるサービスを提供することで、何度もコメ兵を使っていただく。その結果として利益が生まれると考えています。
お互い大切にしているものが近いと感じていたので、企業としての哲学への共感がパートナー関係を結ぶ決め手になりました。哲学に乖離があると、パートナー関係は長くは続かないと思います。
ただ、社内で今回の話を最初に聞いたときは「何かの冗談だろう」と思いました。百貨店は多くのブランドとの取引があるため、リユースの合弁会社にまで踏み込むのは難しいだろうと。一方で、われわれは、「リユースというビジネスの価値を上げたい」と思って誠実に商売をしてきたので、百貨店=一次流通と、リユース業=二次流通の距離が近づくということに胸の高鳴りを感じていました。
それぞれの第一印象を語り合うお三方。両社を結びつけた決定打は企業としての哲学。3人が交わす熱い言葉からも信頼の厚さを垣間見ることができる
循環するのは「資源」であり「ときめき」。リレーユースが生み出す体験価値を特別なものに
――MEGRÜSは、どのような事業を展開されるのでしょうか
下垣:まず、JFRグループの顧客基盤に直接リーチすべく、グループの商業施設にMEGRÜSを一気に出店します。具体的には、今年8月に松坂屋名古屋店に1号店をオープンし、年内に大丸東京店、大丸神戸店、大丸芦屋店、大丸福岡天神店、名古屋PARCOの計6店舗に出店する計画です。3~4年で23店舗の出店を目標としており、10年以内に100億円弱の売上規模を目指します。
また、MEGRÜSで循環させるものは、資源であると同時に「ときめき」でもあります。単にモノを買取るだけでなく、環境共生に通じる偶発的な出会いを創出することで、お客様に「ときめき」を提供できる場所になることを目指しています。
そこで今、「お客様が楽しみながらサーキュラーエコノミーの輪に参加できる機能」を実装できるよう準備を進めているところです。例えば、店頭に環境貢献プロジェクトをいくつか展示し、買取りのお客様に投票権をお渡しし、応援したいプロジェクトに投票してもらう仕組みです。売上の一部を投票数の高いプロジェクトに充てます。これにより、お客様は能動的に環境貢献に参加することが可能です。
「お客様に様々な発見をもたらすような店舗にしたい」と下垣社長。
小野:MEGRÜSを通してJFRが提供できる事業的価値は、広い意味での「集客力」です。われわれは全国の主要都市に店舗を構え、豊かな顧客資産を保有しています。
それを踏まえると、例えば百貨店の外商をご利用されているお客様のご自宅にお伺いし、査定をさせていただくサービスも実現できるはずです。また、Z世代の4割が、モノを購入する際に「将来いくらで売れるか」を意識しているという調査結果がありますので、Z世代を多く惹きつけているパルコとの親和性も期待できます。
コメ兵さんの高い査定力と鑑定力、そしてわれわれの集客力と顧客資産の掛け算で魅力的なビジネスを生み出せると考えています。
石原:コメ兵としてはAIの活用も含めて「目利き」のスキルをしっかりと提供していきたいです。日本のリユース市場は3兆円を超え、2030年には4兆円に達すると予測されていますが、自宅に眠る1年以上使われていないものは66兆円あるとも言われています。
まだまだリユース未体験のお客様は多いのが現状です。その方々に「手放す=良い体験」という価値を提供できれば、リレーユースが思想から文化へとさらに近づくと思います。そのためにも、百貨店クオリティの接客で期待に応える。買取り価格で期待に応える。その前提として、お客様から買取った商品をわれわれコメ兵でしっかりと販売する。合弁会社は、コメ兵という会社にとってもスタッフにとっても、自分たちのスキルを磨き続ける「道場」なのだと思っています。
新会社がもたらす多様な可能性について、ざっくばらんに語り合う
共創が生み出す新しい価値。リテール起点のサーキュラーエコノミーとその先に目指すもの
――では、最後に今後の展望についてお聞かせください。
下垣:JFR & KOMEHYO PARTNERS のVALUEに「すべてを最高に楽しむ」という一文を入れました。まずはこの事業に関わる一人ひとりが挑戦を楽しむための基盤をつくります。
私自身、これまでスタートアップの人たちと一緒になって、面白いサービスの創出を繰り返してきました。その経験やネットワークを生かしながら、MEGRÜSを今までのリユース店舗とは一線を画した価値を提供できる場所にしたいと思います。
「仕事を最高に楽しむためには心理的安全性が重要です。何気ない会話や一緒に過ごす時間も大切にしています」と下垣社長。業務以外のコミュニケーションも活発だ
石原:JFRさんと合弁会社設立のニュースが流れた際、「どうしてそんなことができたの?」と同業者から大きな反響をいただきました。悔しいとかではなくて、「一次流通と二次流通が手をとるその一歩を踏み出してくれた」「やったね」と自分の事のように喜んでくれているのが伝わりました。僕はそれが本当にうれしくて。
一方で、責任も感じています。リユース業者はこれまでも一生懸命やってきたけれど、違う文化の企業と協業することで、われわれだけではできなかった、気づけなかったリユースの価値を掘り起こせる可能性があります。あるいは百貨店と組むことで、買取りだけでなく、百貨店の販売に対するサポートをはじめとする付加価値を提供できると考えています。このような取り組みを通して、新しい体験価値を生み出すことで、リレーユースに共感していただける人を増やすことが、われわれの使命だと思っています。
業界の発展にも貢献したいと思いを込める石原社長
小野:冒頭でお伝えした「環境共生」をより正確に表現すると、「環境と共に生きる社会づくりに、誰もが貢献できる文化を醸成する」となります。JFRは、環境に関する取り組みを先行して行ってきたと自負していますが、CSR(企業の社会的責任)の側面が大きいものでした。私たちは大丸、松坂屋、パルコを展開し、お客様との接点を多く持ちます。自分たちの努力は続けながら、お客様とともに環境問題に取り組む土壌をつくったほうが、社会へのインパクトは大きくなります。JFR & KOMEHYO PARTNERSは新たな一歩であり、その土壌を耕してほしいと考えています。
また新しい合弁会社は、「価値共創リテーラー」の試金石になると思っています。共創パートナーと協業することで、自分たちだけでは成しえない事業をスピーディーに立ち上げることができますし、異業種の会社と垣根を越えて共創していくことで、学びがあり、組織風土への刺激が生まれます。JFRが目指す「価値共創リテーラー」を実証する、強い意思を込めた一手だと思っています。
共創することで生まれる価値について語る小野社長
PROFILE
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石原 卓児
株式会社コメ兵ホールディングス 代表取締役社長 執行役員
株式会社コメ兵 代表取締役社長
1998年コメ兵入社。関東進出時の旗艦店立ち上げののち、店舗での販売促進、マーケティング業務、店舗開発等に従事。2013年6月に株式会社コメ兵の代表取締役社長(4代目)に就任。2020年10月ホールディングス体制への移行と同時に、株式会社コメ兵ホールディングス代表取締役社長も兼任。
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小野 圭一
J.フロント リテイリング株式会社 取締役兼代表執行役社長
1998年大丸入社。店舗での販売促進やパルコ出向等ののち、大丸松坂屋百貨店で黎明期のインバウンドを担当。人材派遣子会社の社長、J.フロント の構造改革推進担当、経営戦略統括部長を経て、2024年3月から社長就任。
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下垣 徳尊
株式会社JFR & KOMEHYO PARTNERS 代表取締役社長
2007年大丸入社。大丸梅田店で戦略立案、大型リニューアル、新規プロジェクト等を経験。JFRの経営企画部、事業ポートフォリオ変革推進部でCVCファンド「JFR MIRAI CREATORS Fund」等の企画・立ち上げに携わったのち、2025年3月から現職。