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2025.03.17

多彩な出会いを生み、新たな「縁」を結んでいく。 ONE TEAMでつくる百貨店の「お酒文化」発信拠点

多彩な出会いを生み、新たな「縁」を結んでいく。 ONE TEAMでつくる百貨店の「お酒文化」発信拠点
2024年に、大規模リニューアルを行った松坂屋名古屋店。その目玉の一つが、お酒売場の刷新でした。それまで本館にあったお酒売場を北館に移設し、売場面積を2.9倍に拡大。名古屋店でお酒売場を運営している大丸興業と、日本酒や日本ワインの品揃えに優れたIMADEYAの強みを合わせ、地域の希少な銘酒から世界のプレミアムワインまで、幅広いニーズに応えるラインナップを実現しました。JFRグループの百貨店と商社がONE TEAMになって「東海地区随一のお酒売場」づくりに挑戦した思いを、リニューアルに携わった大丸松坂屋百貨店と大丸興業の担当者に語っていただきました。

取材・執筆:生木卓 編集:末吉陽子 撮影:上野英和

 

 

お酒を通じて広がるつながり。本物志向のお客様に選ばれる店づくりを目指す


 

――松坂屋名古屋店では、先行する腕時計売場等の改装に続き、2024年11月にラグジュアリーブランド、アートフロアと共にお酒売場を強化しました。「次の一手」にお酒を選んだのはどのような理由からでしょうか。

 

大丸松坂屋百貨店 MDコンテンツ開発第2部 稲垣貴之氏(以下、稲垣):J.フロントリテイリングは、自身の価値観やこだわりを大切にし、心が高揚するような消費や体験を好む「高質・高揚消費層」に支持されることを目指して、今回の名古屋店の改装を進めてきました。

 

僕自身が考える「お酒」とは、こだわりを持つお客様にとってのキーアイテムです。百貨店がお客様とのタッチポイントを広げ、LTV(Life Time Value顧客生涯価値)を上げるカテゴリーだと思っています。「お酒を起点に店全体の売り上げを伸ばす」くらいの思いで取り組みました。そのためには、従来のお酒売場からの大転換が必要でした。

 

「新しいフロアのコンセプトである『お酒を元に縁がつながる場所』が発想の出発点でした」と話す稲垣氏

「新しいフロアのコンセプトである『お酒を元に縁がつながる場所』が発想の出発点でした」と話す稲垣氏

 

大丸興業 酒類リテールチーム 石原典明氏(以下、石原):大丸興業は、J.フロントリテイリンググループの商社で、商品調達力の強みを生かして大丸・松坂屋の10店舗でお酒売場を運営しています。リニューアル前の松坂屋名古屋店の売場は、地下鉄や駐車場への連絡口の近くに位置していたこともあって客数が多く、売上高、利益ともにトップを争う売場でした。

 

ただ、「ついで買い」が中心で、売り方も「ワイン10本1万円」というようなお買い得感をアピールする旧態依然とした百貨店の酒売場だったわけです。今回の改装は、売場を拡大するためとはいえ、本館のなかでも客数の多い場所から、お客様が減る北館への移転でしたので、どのように社内コンセンサスを得るか悩みました。

 

両社でとことんディスカッションして、最終的には「客数は減るけれど、品揃えを変えて、今は捉えられていない『こだわりの顧客層』にアプローチをして客単価を上げる、顧客を育てる、そして売り上げも伸ばしていく」という方向性でチャレンジする覚悟を決めました。

 

「以前は安定した客数と売上があった売場でしたので、移転には不安もありました」と当時の思いを話す石原氏

「以前は安定した客数と売上があった売場でしたので、移転には不安もありました」と当時の思いを話す石原氏

 

大丸松坂屋百貨店 MDコンテンツ開発第2部 古俣雄大氏(以下、古俣):私は売場で販売もしていましたが、こだわりの顧客が一目も二目も置くIMADEYAさんと比べると、百貨店のお酒売場は遅れていると感じていました。

 

蔵元からは「温度管理が不十分なため、ツウの顧客には敬遠されている」「20年30年前は中元歳暮でドンと売れたから努力をしない」「売れ残りは大量返品する」という見られ方をしていました。変革は簡単ではありませんので、店頭を変えるだけでなく、会社・店全体を動かす。そういうつもりで取り組みました。

 

販売員として店頭に立っていたこともある古俣氏。旧態依然とした百貨店のお酒売場の課題を実感していたと話す

販売員として店頭に立っていたこともある古俣氏。旧態依然とした百貨店のお酒売場の課題を実感していたと話す

 

 

わざわざ訪れる価値のある、体験と品揃えの充実。両社の強みを掛け合わせる


 

――北館に誕生した新しいお酒売場は、IMADEYAと合わせて2.9倍に拡大しました。具体的にどのようなチャレンジをされたのですか?

 

大丸興業 酒類リテールチーム 福田善憲氏(以下、福田):それぞれの強みを打ち出した店づくりにチャレンジしました。日本酒や日本ワインを得意とするIMADEYAさんが出店されるということで、私たちは海外ワインを含め洋酒に注力することになりました。新しい店舗ではワインが取り扱い商品の約7割を占め、大衆向けから超高級品まで、これまで以上に幅広いラインナップを揃えています。

 

さらに、売場環境も刷新しました。具体的には、セラーだけでなく酒売場全体の適切な温度管理を24時間できるように専用の空調を導入。これにより、これまで保存状態への不安から購入を敬遠していた、本物志向のお客様からの期待にも応えられるようになりました。

 

また、売場にはテイスティングバーを設け、専門知識を持った係員も採用しました。有料試飲を行い、週末などには1本10万円くらいのオーパス・ワン(人気のカリフォルニアワイン)なども開けます。舌の肥えたお客様としっかりとコミュニケーションができています。やはり、品揃えだけではダメで、お客様としっかり話ができる知識を持った販売員がいてはじめて売れるということを実感しています。

 

「これまでどこの大丸松坂屋の店舗でも実現できなかった、豊富な品揃えと売場環境の整備にチャレンジしています」と自信を覗かせる福田氏

「これまでどこの大丸松坂屋の店舗でも実現できなかった、豊富な品揃えと売場環境の整備にチャレンジしています」と自信を覗かせる福田氏

 

稲垣:今回の改装は、これまで手が届かなかったことにも取り組み、さらに一歩先を行くことを目指しています。例えば、ワインを最も美味しくする黄金比を導き出したワイングラスと呼ばれる「シドニオス」は全商品を取り揃え、テイスティングにも使用しています。

 

よく食器売場で「このワイングラスは香りがたちます」と言葉で説明していますが、お酒売場でまさにその香りを体験することができるわけです。それにより「ワインと一緒にこのグラスも」と、体験が購買につながっています。体験が新たな価値を生むという意味では、テイスティングバーの持つ可能性は大きいと思います。

 

石原:また、店舗の独自性を出すために、お取引先(酒蔵やワイナリーなど)に新しいお店のコンセプトを丁寧に説明しました。その中で、ある蒸留所さんから、ウイスキーを樽ごと提供していただけることになりました。こういった販売方法は業界でも珍しく、売場の見た目のインパクトや差別化にもつながっています。

 

福田:設備や環境は整いましたが、ロマネ・コンティなどこだわりの顧客が求める商品をしっかりと確保することは大きな課題です。お取引先と20数年前から継続的に取り組みをしてきたことが、今良い商品を入手出来ることにつながっています。お客様との継続的な関係を築き、時代に合った売場を構築していくことが大切だと再認識しています。

 

(左上)ワイングラスのシドニオスは全商品を取り揃えた/(左下)店舗の真ん中に鎮座して存在感を示す、国内メーカーのウイスキー樽/(右)テイスティングバーではワインに精通した販売員が接客

(左上)ワイングラスのシドニオスは全商品を取り揃えた/(左下)店舗の真ん中に鎮座して存在感を示す、国内メーカーのウイスキー樽/(右)テイスティングバーではワインに精通した販売員が接客

 

――店頭を変えるだけで、ターゲットとして定めたお客様を捉えきることは、難しいと思います。外商のお得意様には、どのような取り組みを展開されているのでしょうか。

 

古俣:2022年頃から、外商のお得意様向け催事へのお酒の出品を強化するなど、アプローチを重ねてきました。例えば、2024年はウイスキーの特別企画を外商顧客向けのWebサイトで、抽選形式の販売を実施したところ、1200セット(2500万円相当)が完売しました。これまでは、せっかく良い商品があっても、私たちがうまく提案できていなかったのだと思います。現在は、様々な取り組みを通して、どのような商品が好まれるのか、知見が蓄積してきました。

 

稲垣:もともと外商の係員は、お酒に対してそれほど熱心ではありませんでした。なぜなら、何千万円もする絵画や時計と比べるとお酒は小さな商談だからです。そこで、古俣さんと社内営業を頑張って、お客様とのタッチポイントとなる企画を重ねました。その結果、2021年と比べると外商催事でのお酒の売り上げは6倍くらいに成長しています。「日本一の外商」を自負する名古屋店の外商は大きな力です。IMADEYAさんとの出店交渉でも、200人の外商係員の朝礼を見てその熱量を感じていただいたことが、大きなポイントとなりました。

 

お酒売場専用の空調で24時間体制の温度管理を実施し、これまでのお酒売場の弱点を克服。東海初出店となるIMADEYAとの相乗効果にも期待が掛かる

お酒売場専用の空調で24時間体制の温度管理を実施し、これまでのお酒売場の弱点を克服。東海初出店となるIMADEYAとの相乗効果にも期待が掛かる

 

 

酒売場を超えて、文化・人・体験が交差する場所へ


 

――リニューアルから3ヵ月が経ちましたが、手応えはいかがですか?また、これからお酒売場をどのように発展させていきたいとお考えでしょうか。

 

福田:店舗の位置が変わったことで、以前のような「ついで買い」のお客様は減りましたが、よりコアなお客様が来店されるようになりました。また、高価格帯の商品も多く扱えるようになったため、客単価が上がり、売上高も伸びています。オープン前は不安もありましたが、結果的には好スタートを切ることができました。

 

「あの店はいい品揃えだね」という評判は「上級者」の顧客がつくります。希少なお酒も充実させたので、そういう評判を得る道筋はできたと思います。次の課題は、顧客のボリュームを広げていくことです。今はまだお酒に詳しくないお客様に興味を持っていただく。大切なギフトに選んでいただく。イベントなど上手に活用しながら、以前の売場をご利用いただいたお客様も含めて、「グランセルクル」の名前を覚えていただき、必ず立ち寄っていただくお客様を増やしていきます。

 

石原:「ついで買い」の店から目的買いの店へと変革の第一歩は踏み出せました。お酒の蔵元、ワイナリーはそれこそ星の数ほど存在します。なかなか認知が上がらず苦戦するところも多くあります。我々は名古屋店で新しいスタイルの店をオープンさせたことで、「蔵元・ワイナリーとお客様との橋渡し=お客様にもっと知っていただく役回り」を果たさなければと思っています。それと大丸興業のなかでは、酒類の事業はグループシナジーに直接貢献できるカテゴリーなので、今回の成功をステップに、売り上げを大きく伸ばしたいと思っています。

 

大丸松坂屋(百貨店)と大丸興業(商社)がONE TEAMとなって、それぞれの立場から意見を出し合いながら、「東海一のお酒売場」づくりに挑戦している

大丸松坂屋(百貨店)と大丸興業(商社)がONE TEAMとなって、それぞれの立場から意見を出し合いながら、「東海一のお酒売場」づくりに挑戦している

 

古俣:今回、大丸興業、IMADEYAさんと一緒に東海一のお酒売場を目指したことで、「百貨店の当たり前」を脱して多くの学びがありました。店舗により特性がありますが、他の9店舗にも生かしたいと思います。また、名古屋店の取り組みをきっかけに、今まで我々とご縁のなかった生産者さんからも、大丸・松坂屋を意識していただけるチャンスが生まれるのではないかと、新しいつながりにワクワクしています。

 

稲垣:今回の改装は、短期的な効果を狙うだけではなくて、J.フロントリテイリングが2030年に向けて、地域と連携して栄地区の賑わいを作り出す戦略にもとづいています。言わば「栄をデスティネーション(目的地)にする」取り組みです。その好事例となるお酒売場を生み出したことは、ひとつの成果だと思います。

 

僕は、お酒はコミュニケーションツール、全てをつなぎ合わせるアイテムだと思っています。お酒がひとつあるだけで会話が弾みます。お酒×ラグジュアリーブランド、お酒×アート、お酒×旅行、などお酒を中心にして考えられる企画には限りがありません。お酒を通じてアートに興味をもったり、旅行に参加したりと、お酒を入り口に、お客様との繋がりを店全体にも波及することが可能だと思っています。それと同時に、お酒は、僕ら自身が組織の垣根を乗り越えて、新たな提供価値を生み出すための媒体にもなっているのだと思います。

 

お酒売場のリニューアルを通じて、百貨店におけるお酒の新たな価値観の創造にもチャレンジしているメンバー

お酒売場のリニューアルを通じて、百貨店におけるお酒の新たな価値観の創造にもチャレンジしているメンバー

PROFILE

  • 稲垣 貴之

    稲垣 貴之

    大丸松坂屋百貨店 MDコンテンツ開発第2部 デベロッパー&エディター

     

    2007年大丸入社。東京店紳士雑貨バイヤーやリビング売場マネジャー、JFRカードなどを経て2022年から本社お酒担当。名古屋店プロジェクトに2022年携わる。本プロジェクトにおいては、お酒を通じた体験価値開発を積極的に行い「東海地区随一のお酒売場」を構築。

  • 古俣 雄大

    古俣 雄大

    大丸松坂屋百貨店 MDコンテンツ開発第2部 デベロッパー&エディター

     

    2017年株式会社大丸松坂屋百貨店入社。神戸店、須磨店を経て札幌店和洋酒売場チーフに。和洋酒売場での実務経験を活かし2021年より本社にて和洋酒を担当。

  • 石原 典明

    石原 典明

    大丸興業  リテールビジネス部 酒類リテールチーム 統括マネジャー

     

    1991年大丸入社。梅田店婦人雑貨、紳士服、婦人服、販売企画、上野店婦人雑貨、グループ通販会社などを経て2020年から現職。名古屋店和洋酒売場改装プロジェクトに2022年から携わる。本プロジェクトにおいては、売場運営管理全体を統括。

  • 福田 善憲

    福田 善憲

    大丸興業 酒類リテールチーム 西日本エリア担当マネジャー

     

    1992年松坂屋入社。法人外商、名古屋店和洋酒売場マネジャーなどを経て2010年から大丸興業へ出向。静岡店、京都店、名古屋店の和洋酒売場改装に携わる。本プロジェクトにおいては、設計会社と協業で店舗レイアウト、什器配置、商品の品揃えを決定。ワイン専任者(ソムリエ)の採用とオープニングから現在までのイベント計画を担当。