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2025.02.21

百貨店の接客を継承し、企業と顧客の新しい絆を紡ぐ。「明日見世」現場スタッフと出品企業の想い

百貨店の接客を継承し、企業と顧客の新しい絆を紡ぐ。「明日見世」現場スタッフと出品企業の想い
2021年10月、大丸東京店にオープンした「明日見世」。出品企業の商品を知り尽くした「アンバサダー」による熱意あふれる接客と、ショールーミング型の商品出品が特徴の店舗です。現場で働くスタッフや出品企業が考える「明日見世」が生み出す価値、そして接客や売り場づくりのこだわりとは。 前編のインタビューに続き、今回は「明日見世」の運営に携わる社員、そして出品企業である三省製薬様にお話を伺いました。

取材・執筆:小泉ちはる 編集:末吉陽子 撮影:関口佳代

 

百貨店の常識を覆す。アンバサダーが追求する接客の真髄


 

――まず、アンバサダーの役割について教えてください。

 

明日見世 アンバサダー 宮下美幸(以下、宮下):現在、「明日見世」には14名のアンバサダーがいます。共通している役割は、店頭でお客様と会話を楽しみながら商品の概要や商品化の背景にあるストーリー、出品企業の想いをお伝えすることです。

 

通常の販売員とアンバサダーの違いは、「売上をゴールにしていないこと」です。これまでの販売員時代は、商品の売上などの目標達成に向けてアプローチをかける接客でしたが、「明日見世」では、接客の数や会話の質の高さを求められます。

お客様には「明日見世」での新しい出会いや体験を通じてブランドや商品を知っていただき、企業様にはお客様のリアルな声をお届けするという繋がりを意識しています。

 

――アンバサダーのやりがいについて教えてください。

 

宮下:一番は、立ち上がって間もない企業とお客様との架け橋になれることです。素晴らしい商品を知って、体験していただくことで、お客様に現在の生活を見直していただき「いつか、この商品が必要になるんじゃないか」と気づくきっかけを提供できる。それがアンバサダーの醍醐味だと思います。

お客様にブランドのことを聞くと8割位の方が「初めて知った」との回答で、商品を体験すると様々な反応があり、楽しんでいただけている様子を見ると嬉しい気持ちになります。

 

とはいえ、出品企業が3ヵ月に1回のペースで変わったり、取り扱い方が複雑な商品もあったりと、覚えることも多く大変ですが、チームで接客の「好事例」を共有するなど、苦労よりもやりがいの方がはるかに勝っています。

 

紳士洋品や食品売り場での経験を経て、2022年9月からアンバサダーとして活躍している宮下さん

紳士洋品や食品売り場での経験を経て、2022年9月からアンバサダーとして活躍している宮下さん

 

――お客様や出品企業からの反応はいかがでしょうか。

 

明日見世 マネジャー(店舗運営担当) 髙橋知世(以下、髙橋):お客様からは「購入するかどうかを意識せずに、フラットに会話ができる」と好意的な反応を頂いています。

 

「明日見世」はモノを売らない店舗だったのですが、「アンバサダーと話をしているうちに、商品が欲しくなった」というお客様の声にお応えして、2024年9月のリニューアルでは、物販コーナーも設置しました。

 

商品の販売を目的にしないというスタンスは変わらないものの、売上に繋がっています。その理由の一つは、「作り手の想いを伝えよう」というアンバサダーの心構えだと思います。それが、結果としてお客様の購入意欲を高めている気がしています。

 

また、出品企業にも、「アンバサダーの接客や店舗のコンセプトやテーマの設計が良かった」と、ご満足いただけていますね。百貨店の接客スタイルの良さを残しつつ、出品企業の方や複数の社員とワンチームでお客様に価値を提供している点を評価していただけていると思います。

 

「出品企業と二人三脚で、新しいブランドの成長を担っていける」と髙橋マネジャーはやりがいについて語る

「出品企業と二人三脚で、新しいブランドの成長を担っていける」と髙橋マネジャーはやりがいについて語る

 

 

空間を贅沢に使い、心に響く売り場を演出する


 

――売り場の展開については、どのように決定されるのでしょうか。

 

明日見世 マネジャー(マーケティング担当) 大貫哲也(以下、大貫):「明日見世」では、出品がスタートする2ヵ月前に全企業のご担当者とミーティングを行い、企業の情報や課題についてヒアリングします。その上で、店頭での展開プランを練っていきます。たとえば、カスタマイズすることで、より魅力を実感しやすい商品の場合は、お客様が実際に手に取って自由にパーツ配置できるようディスプレイするなどですね。

 

意識しているのは、「モノを売る店舗」と同様のディスプレイにはしないことです。例えば通常の売り場では、限られたスペースを最大限活用し、販売効率の良い店頭を作ると思います。一方、「明日見世」は物販ではなくショールーミングサービスですので、「棚やラックは多用せず平台に陳列する」「商品を大量に置かない」など、空間を贅沢に使い、他の売り場とは異なる見せ方をするよう努めています。

 

ただ、セオリーを徹底することよりも、お客様や出品企業に喜ばれることが最優先です。売上がゴールではないので、アイデアを実行するハードルも低く、新しいことに挑戦しやすいと思います。

 

「まるで博物館のような、お客様がワクワクするディスプレイを心がけている」と大貫マネジャー

「まるで博物館のような、お客様がワクワクするディスプレイを心がけている」と大貫マネジャー

 

――新しい挑戦とあって、試行錯誤も多いと思います。現在の「明日見世」が抱える課題についても教えてください。

 

大貫:3ヵ月に1回のペースで出品企業が入れ替わるということは、逆に言えば12週間ブランドラインアップが変わらないともいえます。月1回の頻度でいらっしゃるお客様にとっては「3回行ったら、3回とも同じディスプレイの店」になってしまうのです。

 

お客様からは「素敵な企業が並んでいるだけで楽しい」というお声は頂戴しているのですが……。それに甘えず、リアルの店舗を訪れる付加価値について熟考し、仕掛けを提案していきたいです。

 

髙橋:アンバサダーについても、課題はあります。アンバサダーはお客様の声を汲み取って、出品企業の今後の戦略のヒントとなるようフィードバックしなければなりません。しかし、売上を目標として掲げていた従来の売り場とは異なり、「質の良いフィードバックとは何か」という具体的な指標がまだありません。

 

しかも、出品企業ごとに抱える課題は違います。課題解決に繋がるようフィードバックしていくのは本当に難しい作業ですし、アンバサダーに「売上ではなく、出品企業の未来を考える」という価値観をどう腹落ちさせていくか、日々考えています。

 

「明日見世」ではショールーミングだけでなく、期間限定のカフェなど様々な形で「体験」を提供している

「明日見世」ではショールーミングだけでなく、期間限定のカフェなど様々な形で「体験」を提供している

 

 

EC全盛時代に「明日見世」出品。老舗企業が見つけた飛躍への道筋


 

――現在(2025年1月時点)、「明日見世」では三省製薬様の歴史やオリジナル企業商品について展示されています。三省製薬様について伺ってもよろしいでしょうか。

 

三省製薬 取締役 藤井章夫(以下、藤井):当社は1887年に福岡(大牟田市)に誕生した、化粧品原料の開発、製造、販売を事業の柱とする企業です。現在、130種類以上の独自の美容成分の開発や、オリジナルブランド「DERMED」「yameKAGUYA」「IROIKU」の製造・販売、化粧品の受託開発、各種試験などを手掛けています。

 

――「明日見世」出品までの経緯や狙いについて教えてください。

 

藤井:もともとは独自のECサイトやECモール、会報誌を通じて商品を販売していたのですが、路面店(福岡)で製品価値の訴求、顧客体験、開発者の想いなどを伝えるショールームを展開したところ、想像以上の手応えがありました。さらなる認知度の向上を検討していたときに、メディアで「明日見世」のことを知り、「東京や大阪でタッチポイントを増やしたい」と、2021年に初めて出品しました。

 

「様々なタッチポイントをリアルとECで繋いでいくことが、ブランドにとっては重要」と藤井様は述べる

「様々なタッチポイントをリアルとECで繋いでいくことが、ブランドにとっては重要」と藤井様は述べる

 

――2021年以降も、「明日見世」への出品を続けていらっしゃると伺いました。

 

藤井:そうですね。2022年7月にはジェンダーフリーの色付き美容液「IROIKU」を出品しました。開発段階から社内で「どうやったら売れるの?」と不安の声が上がっていたのですが、「これは一歩先をいく面白い商品だ。『明日見世』でお客様の反応を見ながら戦略を練ろう」と決めました。結果、お客様の傾向に合わせてどうアピールしていったらよいか、どう陳列したらお客様に刺さるかなど、インサイトの分析やプロの接客から非常に多くのことを学ばせていただきました。その接客術は、大丸東京店の3階で開催した「IROIKU」のポップアップストアにも活かしています。

 

――「明日見世」を訪れるお客様からの反応や接客術以外にも、得られたものはありますか。

 

藤井:「明日見世」への出品は、BtoCだけでなくBtoBへもプラスの影響を与えています。セルフ店やOEM等の取引先に「『明日見世』で弊社の展示をしている」と伝えるだけで、信用が高まるのです。大丸様での展開は、信頼UPに繋がると思います。加えて当社の顧客や社内の開発者も満足度及びモチベーションが上がりますし、それが「明日見世」の価値だなと考えています。

 

「商談の中で、お客様から『「明日見世」アンバサダーの方がこうおっしゃっていました』と伺うことも。『明日見世』に出品している三省製薬、という認識が浸透しているのを実感する」と藤井様(左)

「商談の中で、お客様から『「明日見世」アンバサダーの方がこうおっしゃっていました』と伺うことも。『明日見世』に出品している三省製薬、という認識が浸透しているのを実感する」と藤井様(左)

 

――「明日見世」は小売業界にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

 

藤井:大きく2つあると思います。1つ目は、百貨店と出品企業の関係性が変わるきっかけになるということです。従来は目標売上達成のため、百貨店側からの要望が企業に伝わり、企業は精一杯それに応えるという図式でした。しかし、「明日見世」では出品企業も主体的に様々な提案をしながら、あたたかくて熱心な「明日見世」スタッフと一体となって展開しています。その経験が、企業と百貨店の相互理解及びコミュニケーションを深め、協業の道を歩む端緒となるのではないかと思います。

 

2つ目は、まだ世の中に知られていない企業や商品が「明日見世」のプロの接客や分析を通じ、認知度を拡大していける可能性があることです。ネットを利用して認知を高めていきたくても、あまりの情報量の多さに隠れてしまっている商品は多い。そんな企業こそ、「明日見世」によって信用を高め、新規の取引先や顧客を取り込みつつ様々なチャレンジをしていけるのではないでしょうか。

 

 「『明日見世』をハブにして、大丸の新しい魅力を広く伝えていければ」と展望する「明日見世」スタッフ。藤井様も「今後もスタッフの方と目線を合わせながら挑戦を続けていきたい」と意気込む

「『明日見世』をハブにして、大丸の新しい魅力を広く伝えていければ」と展望する「明日見世」スタッフ。藤井様も「今後もスタッフの方と目線を合わせながら挑戦を続けていきたい」と意気込む

 

「明日見世」店舗運営の中核を担うアンバサダーと髙橋マネジャー

「明日見世」店舗運営の中核を担うアンバサダーと髙橋マネジャー

 

 

前編:「推し」ができるような体験を届けたい。大丸松坂屋百貨店宗森社長×和田プロジェクトマネージャーに聞く「明日見世」の挑戦

 

PROFILE

  • 藤井章夫

    藤井章夫

    三省製薬株式会社 取締役 (マーケティング担当)

     

    26年間通販系化粧品メーカー(2社)で店舗、流通、通販を担当。2021年三省製薬マーケティング担当取締役として、色付き美容液「IROIKU」の上市ならびに三省製薬ブランドの店舗展開に取り組む。「リアル店舗の重要性を追求するためあらゆるチャレンジをすることでこれからの小売業に少しでも貢献したいと考えております」

  • 髙橋知世

    髙橋知世

    大丸松坂屋百貨店 DX推進部 デジタル事業開発担当 明日見世 マネジャー(店舗運営担当)

     

    2006年入社。大丸梅田店婦人くつ売場、婦人洋品売場を経験したのち、2019年婦人服・ミチカケ サブマネジャーを担当。新規カテゴリーの自主編集売場で培った経験を活かし2024年9月から現職を担当。「モットーはやる前から諦めない!」

  • 宮下美幸

    宮下美幸

    大丸松坂屋百貨店 DX推進部 デジタル事業開発担当 明日見世 アンバサダー

     

    2016年入社。2022年9月より明日見世アンバサダーとして参画。つくる人と使う人、そして未来へ。繋がりが生み出す新たな創造を推進。「リアルとデジタルの両面からより多くのお客様へものづくりの魅力をお届けします」

  • 大貫哲也

    大貫哲也

    大丸松坂屋百貨店 DX推進部 デジタル事業開発担当 明日見世 マネジャー(マーケティング担当)

     

    2023年入社。明日見世のVMDを担当したのち現職となり、主にVMD、プロモーション、SNS・WEBサイト運営をディレクション。「お客様、出品ブランド、店頭スタッフの三者がハッピーになれる店づくりを日々模索中です」