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2024.08.29

JFRカードが構想する「決済・金融事業」の差別化と未来図

JFRカードが構想する「決済・金融事業」の差別化と未来図
JFRグループの決済・金融事業を担うJFRカード株式会社は、グループビジョン『くらしの「あたらしい幸せ」を発明する』の実現に向け、「カード発行」「加盟店」「保険・金融」の3つの事業を柱に、独自の戦略を展開しています。 この戦略の根幹にあるのは、JFRグループの強固なリテール基盤を活かした「顧客基盤の拡大」と「地域活性化」です。キャッシュレス決済が普及し、リアルとデジタルが融合する時代において、クレジットカード会社には、従来の枠を超えた新たな価値創造が求められています。今回は、JFRカードの橋本尚弥社長に、同社の取り組みについて、語っていただきました。

取材・執筆:末吉陽子 撮影:関口佳代

 

 

特定の顧客とエリアにフォーカスしたJFRカードの戦略


 

――まず、JFRカードの事業内容について教えてください。

 

橋本尚弥(以下、橋本):私たちは、「クレジットカード発行」「加盟店」「保険・金融」の3つの事業を通じて、お客様に生活の豊かさと利便性を提供するとともに、JFRグループの成長、そして地域とのつながりで、街の発展に貢献することを目指しています。

 

カード発行事業では、大丸松坂屋百貨店やGINZA SIXなどJFRグループの各商業施設内で最もお得なサービス(ポイント付与率や各種優待等)を受けられるクレジットカードを発行しています。当社のカード会員は、購買力やロイヤリティが高く、グループにとっても重要な顧客です。

 

加盟店事業では、JFRグループ内の決済環境を整備しています。当社はVisaとMastercardのブランドライセンスを2019年に取得し、決済環境を整備しました。また、飲食店や小売店、宿泊施設などと提携し、カード会員向けにお得なサービスを提供するエリア加盟店の開拓を積極的に進めています。

 

これにより、カード会員はグループ外の店舗でも、より便利でお得に買い物や食事を楽しむことができるようになります。また、加盟店側には、JFRグループの優良顧客にアプローチできるメリットがあります。

 

保険・金融事業では、クレジットカード会員向けに、保険や資産運用などの金融サービスを提供しています。クレジットカードと金融サービスは親和性が高く、お客様にとっての利便性をさらに高めるとともに、お客様へ将来の安心を提供し、JFRカードとお客様との長期的な関係構築を図っています。

 

――JFRカードが発行するクレジットカードの特徴について教えてください。

 

橋本:一つは、エリアと顧客を絞っている点です。まず、エリアに関しては全国規模で広範囲に展開する戦略を取っていません。例えば、グループ施設が立地する銀座や名古屋の栄エリアなどの特定の地域に応じた、サービスやプロモーションを展開しています。

 

当たり前かもしれませんが、当社会員とJFRグループの顧客層は重なっています。そのため、大丸松坂屋百貨店やGINZA SIX内で当社クレジットカードを利用した際のポイント付与率を、どの決済手段よりも高く設定しています。更に当社のカードはJFRグループの各商業施設のポイントとQIRAポイントと2つのポイントが貯まる設計にしています。

 

そのQIRAポイントはJFRグループの各商業施設のポイントに交換できるだけでなく、特別な体験も提供しています。お客様は確かな品質やサービスを当グループに求めており、単に価格の安さだけで購買を決めるわけではありません。

 

私たちは、そうしたお客様のニーズを深く理解し、JFRグループならではの「顧客体験」を提供することで、長期的な関係を築き、生涯の顧客になっていただくことを目指しています。

 

例えば、2024年に個展「村上隆 もののけ 京都」を貸切で鑑賞ができる体験や、ゴルフのプロアマ大会への参加などの特別体験を実施し好評でした。百貨店やエリア、他社との協業により希少性が高い特別体験や1ポイント1円以上の価値提供をおこなっています。JFRカードでしか実現できない特別体験の提供は、JFRグループが掲げるマテリアリティの「感動共創」にもつながっています。

 

JFRカードが発行するクレジットカードの特徴について語る橋本社長

 

 

エリアと顧客を結ぶ、JFRカードならではの事業戦略


 

――JFRグループの強みを活かした事業戦略について、具体的に教えていただけますか?

 

橋本:JFRグループは長年にわたり百貨店事業を中心に、地域に根ざした事業を展開し、お客様との強固な信頼関係を築いてきました。JFRカードも、この精神を受け継いでおり、単なるクレジットカード会社ではなく、お客様と地域社会をつなぐ、かけ橋のような存在を目指しています。

 

従来のクレジットカード業界では、顧客獲得のために、ポイント還元率や割引サービスなどで差別化を図ることが一般的でした。しかし、JFRカードはポイント還元や割引といった従来型の競争軸ではなく、JFRグループやエリアのアセットを最大限に活用することで、他社には真似できない独自のビジネスモデルを構築しています。

 

――JFRカードならではのビジネスモデルとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

 

橋本:例えば、「エリア加盟店」の開拓はその一つです。加盟店に、JFRカード会員の送客や販促活動などのメリットを提供することで、エリア価値の向上、エリア経済の発展に貢献することを目指しています。

 

現在は、JFRグループの商業施設が立地している7つの地域(札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡)に集中して加盟店を開拓しています。

 

例えば、銀座では銀座1丁目から8丁目までのエリアに注力、名古屋は車社会なので栄を中心に周辺地域まで広げるといった、エリアの特性にあわせた開拓戦略を取っています。

 

エリア加盟店は、主にグループの各商業施設を補完するような店舗を開拓しています。具体的には、飲食、美容院、エステ、宿泊施設などのサービスを提供する店舗と契約し、グループ施設外での顧客体験をさらに豊かにすることを目指しています。

 

これにより、顧客が当社のクレジットカードを利用する機会を増やすと同時に、加盟店との相乗効果の創出につなげています。

 

――加盟店との取り組みは、JFRグループが掲げるマテリアリティの「地域共栄」にもつながるように感じました。

 

橋本:その通りです。現在、300以上の加盟店とつながっていますが、加盟店に対して提供できる価値のひとつは、JFRカードの顧客にアプローチできることです。JFRカードの加盟店手数料は他社と比較すると割高ですが、大丸・松坂屋やGINZA SIXなどJFRグループの顧客にアプローチできることに魅力を感じ、高いバリューに対する対価と捉えていただいています。

 

顧客への具体的な訴求方法としては、SNS、アプリ、WEBサイト、メルマガ、請求書に加盟店情報を同封するほか、リアルのタッチポイントを活かしたカードカウンターでの案内などがあります。

 

また、2024年4月にグランドオープンした名古屋の新たなランドマーク「中日ビル」の店舗を含めて栄エリア周辺の約90店舗で、JFRカード発行のクレジットカードで決済すると、QIRAポイントが通常の4倍貯まるキャンペーンを24年7月に実施しました。

 

SNSやメルマガを活用して広範にこの特典を告知したところ、加盟店での売上が増加しました。この成果は、エリアの活性化を感じる事例だと捉えています。

 

JFRカード発行のクレジットカード

 

 

顧客データの統合をエリア経済の活性化につなげたい


 

――今後、どのような取り組みを強化される予定でしょうか。

 

橋本:グループ内カード発行の一元化と、顧客データの活用です。2025年には当社が新たにパルコ、博多大丸とクレジットカードを発行する予定です。これにより、JFRグループの主要な商業施設のクレジットカードを当社が発行することになり、グループの顧客基盤が統合されることで、これまで以上に顧客の属性や購買行動を把握しやすくなります。

 

グループとして高質・高揚消費層をターゲットにしていますが、まさにそのターゲットとしている顧客層を囲い込み、データによる利活用を進めていきます。もちろん個人情報保護を徹底したうえで、顧客データを安全かつ効果的に活用し、顧客一人ひとりに最適なサービスや情報を、最適なタイミングで提供していきます。

 

例えば、パルコと大丸松坂屋百貨店の顧客データを所有することで、それぞれの顧客の購買傾向や行動履歴を分析し、その分析結果に基づいて、両方の施設で利用できるクーポンを発行するなど、顧客の回遊を促進する施策を展開することが可能になります。

 

また、日本は大都市圏といえども人口が減少しています。一方、7つのエリアは観光エリアでもあり、地域の顧客に加えて観光客の囲い込みができるというのが他のエリアにはないアドバンテージだと考えます。顧客に対し、エリアを超えたアプローチをすることで、エリア間の往来を活性化させる取り組みも念頭に置いています。

 

――顧客データの活用は、エリア経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。

 

橋本:エリア全体を活性化させるためのツールとして活用していきたいと考えています。従来のクレジットカード会社では、顧客の属性・購買・行動データは、主に自社のサービス改善やマーケティングに活用されてきましたが、まったく異なる発想で、お客様一人ひとりのライフスタイルに寄り添った、全く新しい顧客体験を創造していきたいです。

 

将来的には、顧客の購買データや行動履歴などのデータを、地域の他の事業者でも活用していくことを検討しています。これにより、地域の事業者は、より的確なマーケティング活動や商品開発を行うことができるようになり、エリア経済全体の活性化に貢献できると考えています。

 

顧客から得られる行動データや地域との連携・協業を通じて、これまでにない顧客体験と地域共栄を両立する、新しいビジネスモデルを創造していきます。

 

顧客データの統合をエリア経済の活性化につなげるための取り組みについて語る橋本社長

 

 

――最後にJFRカードの目指す未来について、教えてください。

 

橋本:私たちは、クレジットカード、決済という枠を超えて、顧客とエリアをつなぐ架け橋のような、エリアにとってなくてはならない存在になることが私たちの目標です。しかし、様々な決済手段の登場により、クレジットカードビジネスは過渡期を迎えています。

 

もしかしたら、いずれは「カード」という名称が過去のものとなる時代が来るかもしれません。実際、バーチャルカードやコード決済などのスマホ決済の普及により、物理的なクレジットカードの必要性が低下している現状を踏まえ、社名から「カード」を外すことも視野に入れた戦略を検討しています。

 

持続的な成長を実現するためには、新たな価値の創出が必要です。そこで、JFRカードでは、個人向け(BtoC)中心のアプローチから、法人向けの保険や融資など、企業間取引(BtoB)における金融サービスを展開することにも挑戦したいと思っています。この分野における具体的な戦略を立て、実現に向けて取り組んでいく予定です。

 

カード発行事業を単なる「カード」ではなく「決済」として広く捉えた場合、まだまだやるべきことが多く残されています。顧客の利便性、体験価値向上は引き続き追求しながら、新たなビジネスチャンスを創出していきたいです。

 

 

 

PROFILE


 

橋本尚弥 (はしもとなおや)

JFRカード株式会社 代表取締役社長

東京学芸大学教育学部卒業後、2009年 J.フロント リテイリング株式会社入社。2010年 株式会社大丸松坂屋百貨店入社。2018年 JFRカード株式会社 事業開発部 マネジャー、2019年 同社事業開発部 部長、2021年 同社経営企画部 兼 加盟店事業部 部長、2022年 同社ビジネスパートナー本部 本部長を経て、24年3月から現職。