2024.06.24
【PARCO 医療ウェルネスモールWelpa】健康だから楽しめる パルコ が女性たちへ伝えたい“未病対策”のこと
取材・執筆:苫米地香織 撮影:藤原葉子
「まさか自分が病気になるなんて」
という意識を変えるパルコのウェルネス事業
――パルコは、なぜウェルネス事業に参入することになったのでしょうか。
パルコ ソーシャルビジネス開発部ウェルネス事業担当 浅原那木子(以下、浅原):パルコは、創業時からファッションやアート、カルチャーの発信を通して、都市生活者の心豊かなライフスタイルを提案してきました。それと同時に女性の社会進出についてメッセージを発信していた会社でもあります。時代を経て人々の働き方やライフスタイルが多様化し、さらにコロナ禍で価値観が急激に変わり、人々が求める心豊かな生活をあらためて考えていく必要がありました。
そこで、一人ひとりが自分らしく健やかな人生を送り、心豊かに暮らしていける社会には“健康であること”が欠かせないと捉え、医療領域も含めたウェルネス事業を2019年からヘルスリテラシーの向上やセルフケア文化の浸透、女性特有の健康課題解決に貢献する医療・物販・サービス・イベントをトータルで提供する場を構想しました。創業時から培ってきた“パルコの発信力”も活かせると考えています。
なんとなく調子が悪いと感じる方が少しでもリラックスできるような、柔らかで安心感のある空間デザインにもこだわっています、と語る浅原さん
――女性特有の健康課題には、どんなことがあるのでしょうか。
浅原:事業構想にあたり女性の健康について調べてみたところ、なんとなく調子が悪い未病の症状の方が多いことや、20~40代のガン患者の約7割が女性で、特に30代後半から増える傾向にあることがわかりました。女性特有の子宮頸がんや乳がんは20~30代でも罹患リスクが高く、罹患率も近年は増加傾向にあります。世界に目を向けると、医療保険制度の違いがあるとはいえ、日本のがん検診率は先進国の中で極めて低く、未受診者が約6割というデータが出ています。
受診しない理由も「面倒だから」「時間が取れなかった」「費用がかかる」など、日々の仕事や家族のために奔走して、自分のことを後回しにしてしまう女性が多く、そういった無関心層に対してのヘルスリテラシーを上げていきたいと考えています。
近年は医療格差や医療費高騰など、国内医療の社会問題もあるので、まずは初期の段階で防ぐことが大切だと医療分野で言われています。
――その一方で、なんとなく調子が悪い「未病」とはどういう意味でしょうか。
パルコ ソーシャルビジネス開発部ウェルネス事業担当 久保田絵美子(以下、久保田):未病とは、病気ではないけれど、なんとなく調子が悪い、自覚症状があっても検査では異常が見つからなかったり、自覚症状がなくても検査で異常が見つかったりするような、健康から病気に向かう間のことを指します。
なんとなく体調が悪い、疲労感がある、眠れないなど、「なんとなく調子が悪い」と言いながらも、仕事や家事に追われて病院へ行くのを後回しにしている方が周囲にいませんか。そういった方が気軽に立ち寄れて、検診を受けたり、健康相談できたりすれば、もっと多くの方の健康課題の解決に貢献できるのではとないか考えました。
――21年11月に1号拠点が心斎橋PARCOにオープンしましたが、心斎橋に決めた理由は。
久保田:構想する中で、当事業がターゲットとして定めている、PARCOの主要顧客層である20~40代の女性へ確実にアプローチできる場所として心斎橋PARCOが候補に上がりました。特に買い物目的のお客さまが多い館なので、買い物や遊びに来て立ち寄った先で健康に関する耳寄りな情報が得られることで、健康意識を高めていけるのではないかと考えました。
また、この場所は大丸心斎橋店北館の跡地で大丸と連結しているため、そこからのお客さまの流入が期待でき、グループの集客力を活用してより多くのお客さまへサービスを提供できることも理由のひとつです。
久保田さん自身も無関心層だったからこそ、パルコのウェルネス事業が目指していることにとても共感し、Welpaに来て、みんなに健康になってほしいと願っている
――今年2月には浦和PARCOに2拠点目がオープンしましたが、こちらはどういった経緯で決まったのでしょうか。
パルコ ソーシャルビジネス開発部ウェルネス事業担当 中島梨奈(以下、中島):浦和は駅周辺の再開発が進み、人口が毎年増えています。浦和PARCOの利用者も年々増加しており、若年層から高齢層まで幅広くお客さまがいらっしゃいます。そこで幅広い世代の方々に健康診断やクリニックなどをご利用いただきながら、セルフケアの大切さを発信し、健康意識の向上とヘルスケアの提案ができるのではないかと考えました。
ほかにも、Welpa心斎橋と共通して言える点としては、駅からのアクセスがしやすく、商業施設内にある利便性、買い物や食事などのついでに立ち寄れるところが決め手になっています。
――心斎橋と浦和では客層が異なると思いますが、それぞれどのようなクリニックなどが入っているのでしょうか。
久保田:Welpa心斎橋は女性客を意識して、産婦人科、皮膚科・美容皮膚科、歯科・矯正歯科の3つのクリニックと調剤薬局が入居しています。そのほかにフェムテック専門店や体に嬉しい自然素材のりんご飴専門店のカフェがあり、医療目的でなくても立ち寄りやすい環境になっています。
中島:Welpa浦和は近隣にお住まいの方が高頻度で買い物に来る館なので、内科・消化器内科・乳腺外科・人間ドック・健康診断が受けられるクリニックや子どもも安心して受診できる歯科クリニック、処方箋なしでも薬剤師さんと日々の不調や健康に関する不安事を相談できる調剤薬局が入居しています。生活する中で気軽に立ち寄っていただけるような地域密着型の環境です。
産休・育休を経て、ウェルネス事業部へ復帰してきた中島さんは、自分自身の経験を活かして、女性のセルフケア意識を高める企画をいつも考えている
パルコらしい情報発信スタイルで
女性の未病対策を拡散する
――医療モールを運営されてみて、お客さまの健康意識は変わってきていると感じますか。
久保田:Welpa心斎橋で国際女性デーに合わせてイベントを行いましたが、その盛り上がりを見ると、健康やセルフケアに対する興味関心は高まっていると感じます。
中島:Welpa浦和でも母の日に合わせてイベントを開催しました。「健康について考える」というと堅苦しく真面目なイメージがありますが、楽しみながら自分と向き合い、体験しながらセルフケアについて知ることで、健康意識を高めていく。知るきっかけのハードルを下げることこそ、パルコが得意としている情報発信のスタイルだと考えています。
国際女性デーに合わせて開催されたWelpa心斎橋のイベントでは、買い物に来たお客さまが立ち寄り、掲示されたボードを熱心に読む姿などが見られた
ベビーカーを押して買い物に来るWelpa浦和では、母の日に合わせて子どもを一時保育に預けて検診が受けられるイベントを開催した
――館内の医療施設はテナント従業員も利用できるかと思いますが、テナント向けの施策も行われているのでしょうか。
久保田:テナントもふくめ従業員への啓蒙活動にも注力しています。Welpa心斎橋の歯科クリニックでは、ホワイトニングの割引や歯石除去を従業員価格で提供いただいています。定期的に歯科検診を受けて欲しいと従業員用休憩室に使い捨て歯ブラシを置いたり、案内POPを掲示したりして、受診促進しています。
パルコと大丸は休憩室が連動しているので、大丸の従業員もPOP を見て歯科検診に来てくれています。ほかのクリニックでも、過去に子宮頸がんのワンコイン検診を行う等の施策を実施しているので、もっと広めていきたいです。
中島:Welpa浦和のクリニックでも、パルコ社員はもちろん、テナント従業員にも健康診断や人間ドックで利用いただいています。ショップスタッフの皆さんから「館内にあるから勤務前後に行けるので助かります」との声も上がっています。今後はインフルエンザのシーズンにはワクチン接種や健康相談なども検討しているので、もっとテナントの皆さんの健康支援ができたらいいなと考えています。
久保田:この事業に着任して1年になるのですが、最近は人に会うたびに「検診、行ってます?」と聞いて歩いていて、すっかり“検診おばさん”になっています(笑)。
――なにか検診おばさんになるきっかけがあったのですか。
久保田:実はコロナが明けた時に母の乳がんが判明しました。よく話を聞くと「コロナが怖くて病院に行けなくて、3年も検診に行ってなかった」とポロっとこぼしたので、母と同じように考えていた人は多いのではないかと思いました。
テナントのスタッフさんたちと話していても、自分が病気になると思っていない様子なので、まだまだ無関心層は多いのだと感じます。そこで未病やセルフケアについて話すと「今度、Welpaに行きます!」と言ってくれるので、あらためて発信し続けることが大切だと気づきました。
――お客さまへ向けた啓蒙活動も大切ですが、テナントスタッフにも地道な啓蒙活動することが、結果的にお客さまへ波及していくという流れになるといいですね。では最後に、今後のウェルネス事業、Welpaの展開について教えてください。
浅原:Welpa心斎橋は開業から伸長を続け、現在も認知拡大が進み、リピーターが増えていると実感しています。Welpa浦和も売上、客数ともに当初の見込みを上回る結果で、お買い物ついでにご利用いただいている状況です。ですので、パルコが得意とする楽しみながらセルフケアや検診に関心を持っていただけるセミナーやイベントの開催、オンラインコンテンツの充実化を図り、新規客の獲得をしていきます。
社会的には女性の健康課題や未病対策、フェムテックについて重要視されてきていると感じているので、Welpaを通じて多くの女性に健康課題や未病対策、セルフケアの重要性を知っていただき、ヘルスリテラシー向上の一助になれればと考えています。
次の展開拠点に関しては検討中ですが、Welpaでつながった新たな事業者や自治体と共創し、医療モールの形にこだわらず、未病に対する健康意識の向上や予防・自身のケアをすることを、新しい文化として醸成していける取り組みを考えています。例えば、自分たちのウェルネスの悩みや考えを話し合って繋がれるような交流場所「ウェルネスコミュニティー」などを提供したいです。
また、Welpaをステップに新たなウェルネス事業開発にも挑戦し、J.フロント リテイリングが掲げる、3つの共創価値、5つのマテリアリティに貢献していきたいと思います。
自分のことを後回ししてしまう女性こそ、自分にもっと目を向けて欲しいと願う三人。Welpaからセルフケア文化を起こしていきたいね、と笑顔を見せた。
久保田:すっかり“検診おばさん”と化していますが、この事業に携わるようになってから女性の医療・健康課題、未病対策を学び、私自身も真剣に考えるようになりました。最終的には検診を受けて欲しいですが、その前段階として、まずは自分自身のカラダと向き合い、健康について考えていただきたいです。
乳がん検診は1時間もかからないので、例えば、待ち合わせで相手が1時間遅れるとかで時間が空いたら「検診にでも行こうかな」とお客さまが思えるようにすることが、Welpaの存在意義になるのではないかと考えています。最近は、衣食住以外に趣味や推し活など、お金を使う優先項目がたくさんありますが、それらは健康であってこそ楽しめることなので、パルコが得意とする発信方法でお客さまのセルフケア意識を高めていきたいです。
PROFILE
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久保田 絵美子
株式会社パルコ ソーシャルビジネス開発部 ウェルネス事業担当
2007年入社。名古屋店・調布店・仙台店等の店舗を中心に店舗運営・改装業務などを担当。
2023年3月よりWelpa浦和の開業業務を経て現在はWelpa心斎橋の常駐スタッフとして現場運営業務に従事。
新規のWelpa拠点開発先を検証しながら、心斎橋大丸・パルコのお客様だけではなく勤務する従業員の方々にも併せてWelpaの認知拡大に向けて業務推進を行っている。
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浅原 那木子
株式会社パルコ ソーシャルビジネス開発部 ウェルネス事業担当
2008年入社。地域密着型の店舗を中心に店舗運営・宣伝業務などを経験し、2023年9月より現職に従事。Welpaの宣伝やPR業務などを担当している。
Welpaを通じて、セルフケア文化の浸透やヘルスリテラシーの向上、一人一人にあった健康課題解決へのきっかけ作りの支援を行うことを目指している。
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中島 梨奈
株式会社パルコ ソーシャルビジネス開発部 ウェルネス事業担当
2015年入社。店舗や本部でポップアップショップやテナントのリーシング業務を経験後、産休・育休を経て2023年4月に現職へ復帰。
現在はWelpaの新規拠点開発・クリニック誘致を担当している他、Welpa浦和の拠点担当として、健康無関心層の行動変容に繋がるヘルスケア企画を推進している。