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2024.03.22

公園の新たな可能性を“発明”。実証実験「PAXX?」が目指す世界観に迫る

公園の新たな可能性を“発明”。実証実験「PAXX?」が目指す世界観に迫る
J.フロント リテイリング(以下、JFR)のグループ会社であるJ.フロント都市開発は、名古屋市栄の久屋大通公園のエンゼル広場で、公園の新しい使い方や可能性を模索する実証実験を三菱地所と竹中工務店とともに実施しました(2023年9月27日から10月2日まで)。「PAXX?(ピーエー)」と名付けられたこのプロジェクトの詳しい内容や反響、今後の展望について、企画と運営を担当した開発部の田口孝則さん、建築企画部の早福清一郎さん・松井江真さんに話を伺いました。

取材・執筆:小泉ちはる 編集:末吉陽子 撮影:藤原葉子

 

魅力的な街づくりを見据え、公園再整備のあり方を検証


 

――なぜ、J.フロント都市開発が公園再整備のプロジェクトに携わっているのですか。

 

J.フロント都市開発 開発部 田口孝則(以下、田口):久屋大通公園は名古屋市主導で再整備を計画していて、当社はかねてより意見交換会に参加していました。当社はJFRグループ全体のデベロッパー事業を担い、多様な都市生活提案と魅力的な街づくりを目指しています。久屋大通公園南エリアの沿道・周辺には、JFRグループが運営する松坂屋、パルコ、名古屋ZERO GATE、BINO栄があり、さらに再開発事業「(仮称)錦三丁目 25 番街区計画」が進んでいます。沿道の施設と公園が呼び合う環境をつくることで相乗効果が生まれ、もっと回遊性のある街がつくれるのではないかと考えました。

 

しかし、街づくりは当社だけでできるものではありません。周辺の企業さまや公園周辺地域の皆さまと企業や自治体の枠を超えて、協力し合いながらプロジェクトを進めています。その中で、当社は空間・コンテンツを含めた計画立案、運営、行政や沿道事業者との調整、SNSなどでの情報発信を担当しています。

 

施設案内の写真

久屋大通公園南エリアの沿道・周辺には、JFRグループが運営する施設が並ぶ

 

――実証実験の目的を教えてください。

 

田口:名古屋市が目指す「新たな創造が生まれるウォーカブルなまちづくり」をどう具現化していくのか、公園再整備の方向性を定める必要がありましたが、当社には公園の整備事業に関する知見がありません。そのため、テーマと期間を決めて実証実験を行うことにしました。その間、テーマに合わせて公園空間のレイアウトを変えたり集客イベントを開催したりして、課題や不足点の把握、久屋大通公園沿道施設との連携手法を検証。その結果から得た知見を行政や地域と共有し、将来の再整備に活かそうと決めました。

 

当社グループは“くらしの「あたらしい幸せ」を発明する。”というビジョンを掲げています。公園の新たな可能性を“発明する”つもりで、このプロジェクトに取り組んでいます。

 

――変わったプロジェクト名ですね。


田口:実証実験は複数回の実施を想定しており、第1弾は「PXXX?(読み:ピー)」、第2弾が「PAXX?(読み:ピーエー)」と、回を追うごとに1文字ずつ明らかになっていく仕掛けです。

 

田口さんが話している写真

「沿道の施設と公園が呼び合う環境を作ることで、栄の価値向上に貢献したい」と熱心に語る田口さん

 

 

――どのような実証実験なのですか。

 

田口:2023年に当社が中心となって立ち上げた「PAXX?」は、「My Place / Our Park」をコンセプトに、いつ訪れても自分のお気に入りの場所「My Place」を見つけることができ、訪れる人たちに愛着を持ってもらえるような都市の憩いの空間「Our Park」の実現を目指してスタートしました。

 

2022年に実施した第1弾の「PXXX?」では、久屋大通公園の光の広場で来街者の利用を促進するため、学生向けワークショップ、音楽ライブ、DJイベント、フリーマーケット、アートの設置などを行いました。
その結果、平常時と比較すると光の広場の来場者数は2倍から3倍に増加。久屋大通公園のポテンシャルを感じました。同時に、イベントだけではなく日常的に休憩や飲食ができる心地良い場所へのニーズがあることにも気づいたのです。

 

そこで、第2弾「PAXX?」は、テーマを「様々な世代が訪れる、平常時の賑わい創出」に設定。「日常的な憩いの空間」と、食や音楽、AR空間、ワークショップなどによる「賑わい空間」が両立するかを検証しました。具体的には、エンゼル広場に800㎡の芝生を敷き詰め、ハンモック、ガゼボ(移動式のあずまや)などのファーニチャー、遊具、ストリートピアノ、DJイベント、ARあおぞら水族館(※)、ランタン、キッチンカーなど、憩いを演出する仕掛けを施すことになりました。
※ARあおぞら水族館:AR(拡張現実)、VR(仮想現実)を体験・制作できるアプリ「STYLY」を起動し公園内を映すと、目の前に海の生物が出現。

 

イベントの写真

「PAXX?」のテーマ「様々な世代が訪れる、平常時の賑わい創出」にフィットする企画を試行

 

 

「日常的な憩いの空間」と「賑わい空間」の両立を突き詰める


 

――今回の実証実験で工夫を凝らしたポイントについて教えてください。

 

J.フロント都市開発 建築企画部 松井江真(以下、松井):今回のテーマが「平常時の賑わい創出」ということで色々な企画案が出たのですが、公園を訪れる人たちの価値観は様々です。一律に満足していただくことはむずかしいものの、「誰も排除することなく楽しめる」空間にしたいと思いました。

 

たとえば、都心部の憩いの空間づくりとして、足を伸ばして座ったり、寝転んだりした時に心地よい天然芝を使いたかったのですが、一方で子どもを自由に遊ばせたり、服を汚したくないという人には、クッション性があり、雨上がりでもすぐ乾く人工芝の方がふさわしい場合もあります。また、今回のように遊具やハンモックの下に敷く際にも人工芝が適しています。どちらを採用するかメンバー間で議論を尽くし、出した結論は広い面積に両方を境目なく敷くということ。どちらの業者にとっても前例のない施工となりましたが、「誰も排除することなく楽しめる」空間の実現のために突き詰めた結果です。

 

松井さんが話す写真

「“憩いと賑わいの両立”、“誰も排除しない空間づくり”を突き詰めた」と振り返る松井さん

 

 

J.フロント都市開発 建築企画部 早福清一郎(以下、早福):芝生に寝転んでゆっくり過ごしたい人と、走り回って遊んでいるお子さんが互いに干渉しないよう、それぞれの空間をどううまく両立させるかが課題でした。
また、ファーニチャーにもこだわりました。エンゼル広場には、既存のベンチがあるものの、かなり老朽化しています。買い物帰りに気軽に座れなかったり、グループで休憩したくても横並びに腰掛けるしかなかったりと使い方が制限されていました。そのため、一人でもグループでもお気に入りのくつろぎ空間をつくれるように、「持ち運びができて、自由に配置を変えられる」ことを重視してファーニチャーを選定しました。

 

イベントの写真

お気入りの場所に椅子やハンモックを移動してくつろぐ人々

 

 

松井:来園を促進するワークショップについてもこだわりがあり、今回は多様な世代の方に来ていただくために、敢えてターゲットを絞りませんでした。第1弾「PXXX?」の時は「学生向け」としたので学校に案内を送るなどの告知ができていたのですが、今回はセグメント化したアプローチができず…。実は実証スタート直前まで席が埋まっていないワークショップもあり、本当にドキドキでした。

 

幸い、会場の雰囲気を感じたり、開催されているワークショップを実際に見たりして、その場で申し込んで参加される方もいらっしゃって、最終的に満席になりましたね。私たちの求めていた「誰もが楽しめる空間」の雰囲気を醸し出すことができていたのではないかと思っています。

 

イベントの写真

つい参加したくなる雰囲気が漂い、ワークショップは満席に

 


ニーズを満たす空間があれば、告知せずとも人はやってくる



――「PAXX?」の実験結果をどうとらえていますか。

 

田口:SNSの告知に対する反響は芳しくなかったのですが、それに反してたくさんの方にご来場いただきました。最終日は月曜だったのですが、朝から椅子に座ってくつろいだり、夜まで元気いっぱい遊んだりする姿を見受けられて、世代を問わずゆったりした公園らしい時間が流れていました。「私たちの目指していた空間が実現できた」と嬉しくなりましたね。

 

各種調査からも、満足度の高さを読み取れます。たとえば、5割以上の方が普段よりも公園での滞在時間が伸びていました。また、空間の印象を10段階で評価を実施していただいたところ、第1弾と比較して「居心地がよい」「魅力的」「快適」「センス」「満足感」など、すべての項目で評価が上昇しています。

 

早福:アンケート結果でいえば、「将来の久屋大通公園南エリアの再整備の時にもあった方がいい」という項目のトップ3が「椅子・テーブルなど休むためのファーニチャー類」、その次に「芝生」、そして「キッチンカー」でした。また、「芝生の広がる、こんな公園ができたら嬉しい」「親の買い物中、子どもを遊ばせられる場所があるとよい」などのコメントも頂いています。

 

早福さんが話す写真

「こだわったポイントが評価され、手応えを感じている。さらに検証を進めたい」と意欲を燃やす早福さん

 

田口:実験を通じて、興味深い事実が明らかになりました。普段、平日のエンゼル広場で最も見られる活動は「喫煙」だったのですが、 実験時は「何もせずひと休みする」という人が一番多かったのです。「やはり、イベントによらない日常的なニーズがエンゼル広場にはあった」「ニーズを満たす空間があれば、告知をせずとも人はやってくる」と確認できたのが、実証ステップの大きな成果だと思います。

実際、エンゼル広場へお越しになった理由を伺ったところ、沿道へ寄ったついでに訪れた方が47%、実証実験を目的に来られた方が36%。約半分の方が、「PAXX?」によりつくられた空間に惹かれて、足を運んでくださったのです。

 

――今後の展望について教えてください。

 

田口:第1弾、第2弾を経て、ある程度は再整備への知見を得る基盤づくりができたのではないかと思います。公園が魅力的になれば栄エリア全体の価値はもちろん、エリアにあるJFRグループの物件の価値も向上すると信じているので、さらに実証実験を重ね、公園がより魅力的になるコンテンツを検証・提案していく予定です。

 

松井:エリア価値が上がった時の、グループ全体のメリットは計り知れません。今後はその価値を測る仕組みも、考えていく必要がありますね。

 

田口:官民が主体的に動き、沿道の運営施設と公園が呼び合う環境がつくられれば、人々の回遊性が高まります。今後もそんなウォーカブルタウンを目指していくつもりです。

 

イベントの写真

エリアの価値向上を目指し、J.フロント都市開発の挑戦は続く

※PAXX?関連画像提供:J.フロント都市開発株式会社

PROFILE

  • 田口 孝則
    J.フロント都市開発株式会社 不動産戦略ユニット 開発部 兼 マーケティング戦略室


    2009年大丸松坂屋百貨店に入社。2015年㈱パルコに出向。以降一貫して不動産開発事業に携わる。現在は、「(仮称)錦三丁目25番街区計画」「(仮称)心斎橋プロジェクト」の開発他、新規アセットタイプの企画・開発のプロジェクトマネージャーとして事業推進。本プロジェクトにおいては、関係先さま(行政・地域・企業他)との協議・調整を担当。

  • 早福(そうふく)清一郎

    J. フロント都市開発株式会社 建築ユニット 建築企画部 兼 マーケティング戦略室

     

    1999年パルコプロモーション(現パルコスペースシステムズ)入社。商業施設の環境デザイン、店舗設計を担当。3年間の出向ののち2011年パルコ入社。計13年、海外事業担当部門に所属し、中国・東南アジアの商業施設開発に関わるコンサルティング業務や物件開発に従事。その後、パルコ空間デザイン部を経て現職。現在は保有物件の利活用や既存施設の将来計画検討等を担当。本プロジェクトでは会場レイアウト、ファーニチャー/什器の選定および配置計画を担当。

  • 松井 江真
    J.フロント都市開発株式会社 建築ユニット 建築企画部

     

    鉄道会社での大型複合開発経験を経て、2018年3月、大丸松坂屋百貨店(不動産事業部)へ入社。2020年㈱パルコ空間デザイン部への出向を経て、現職に至る。現在は、J.フロント都市開発の推進する開発案件の建築担当として事業に関わる。大学院時代はランドスケープ研究室に所属し、公園のポテンシャルを認識。本プロジェクトでは協業企業と連携し、空間を構成する什器、ワークショップを担当。