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2024.01.17

ファン×プレーヤーをつなぐ。eスポーツで創造する新しいコミュニケーション

ファン×プレーヤーをつなぐ。eスポーツで創造する新しいコミュニケーション
J.フロントリテイリング(以下、JFR)グループのパルコとXENOZ(ゼノス)は、新たなeスポーツエンタテインメントイベント「Hype Up(ハイプアップ)」を発足させました。第1弾として、2023年10月から11月にかけて名古屋・大阪・東京で「Hype Up Tour Japan」を開催。ファイナルステージの会場には、Z世代の女性を中心に多くのeスポーツファンが集まりました。大型モニターに映し出されるゲーム画面を見つめ、戦況に一喜一憂し、応援するプレーヤーの活躍に歓声を上げるファンの姿に、新たなカルチャーの息吹を肌で感じました。そこで、このイベントの企画・運営に携わったパルコの西澤優一さん、XENOZの柏木敏弘さん・金濱壮史さんにHype Up発足の経緯やeスポーツ業界の現状と展望について伺いました。

取材・執筆:苫米地香織 撮影:関口佳代

 

――「Hype Up Tour Japan」のファイナルステージを会場で観戦させてもらいましたが、大変盛り上がっていて驚きました。それこそ、サッカーや野球などのスポーツ観戦と遜色ないと感じました。

 

XENOZ コミュニケーション部 執行役員 金濱壮史(以下、金濱):Hype Upは、eスポーツ観戦の熱量を体感していただくイベントなので、そう感じていただけて嬉しいです。ふだんスポーツ観戦はしなくても、サッカーやラグビーのワールドカップ、WBCといったビッグタイトルなら家族や友人と見るという方は少なくないと思います。そして、一緒に応援しているうちに、気づくと熱狂していたという経験をお持ちではないでしょうか。スポーツ自体が持つ魅力と、周りの人と一緒に盛り上がる一体感との相乗効果ですよね。eスポーツにも熱狂できる要素は多く、もっと観戦の一体感を演出できれば、新規ファンを惹き付ける可能性があると感じています。

実際に、スポーツバーで開催されたeスポーツのパブリックビューイングに参加したときには、リアルのeスポーツ会場を超えるほどの熱狂が巻き起こっていました。狭い空間ということもあり、会場が一体となって盛り上がるんです。Hype Upでも、ゲームの細かいルールを知らなくても熱狂できるということを体験していただき、eスポーツファンの裾野を広げていきたいと考えています。

 

話している金濱さんの写真

「Hype Upでeスポーツ観戦の魅力を伝え、新規ファンを増やしたい」と熱心に語る金濱さん

 

パルコ エンタテインメント事業部 コンテンツ事業担当ゲームチーム 業務部長 西澤優一(以下、西澤):オンシーズンの競技は選手が主役ですが、オフシーズンのイベントであるHype Upの主役はファン。日本には応援文化、推し活文化が根付いています。Hype Upは “ファンの情熱”に焦点を当て、

①ファンの参加を積極的に取り入れ、会場全体が一体となる興奮の瞬間を作り上げる

②ファンと選手が共感で繋がるコンテンツを生み出す

③ファンが心を解放して思いのままに声を張り上げ選手を応援できる環境を提供する

という3つのコンセプトを掲げています。

 

今回のHype Up Tour Japanも、人気ゲーム「VALORANT(ヴァロラント)」のトッププレーヤーがツアー限定のオリジナルチームを組んで対戦したり、音と照明で観客とプレーヤーとの一体感を演出したりするなど、“新次元のeスポーツ観戦体験”を創造することにこだわりました。

 

イベントの写真

渋谷のDRAGON GATEで開催したファイナルステージ。“ファンが主役”となる新たなeスポーツ体験を追求

 

パルコとしては初めてeスポーツイベントを主催しましたが、プレーヤーとの交流や音と光の演出を楽しんでくださっているお客さまの姿を見てほっとしました。オフシーズンのHype Upを盛り上げることで、オンシーズンの競技シーンの盛り上げにもつなげていきたいと思っています。

 

話している西澤さんの写真

金濱さんの熱意に共鳴して「XENOZと一緒に日本のeスポーツの発展に尽力したい」と意欲を燃やす西澤さん

 

 

――あらためて、国内外のeスポーツの現状を教えていただけますか?

 

金濱:国内のeスポーツ人気は急速に高まっています。日本は、80年代後半にテレビゲームが登場して以来、ゲームに対する理解が高く、老若男女問わずゲーマーが多い国です。しかし日本のゲーム市場は長らくコンソールゲーム(Nintendo Switch、プレイステーションなど専用機を必要とするゲーム)が中心で、eスポーツの主軸であるPCゲームの普及は諸外国に遅れをとったという背景があります。

eスポーツはゲーム専用機が普及していない国で発展している傾向があり、日本ではeスポーツの盛り上がりが今一つという状況だったのですが、コロナ禍で人気インフルエンサーがゲーム配信をしたり、強い日本人プレーヤーが育ってきたりしたことと、推し活ブームの到来が重なって、一気に熱量が上がっていきました。

 

XENOZ 代表取締役副社長 柏木敏弘(以下、柏木):今回のHype Up Tour JapanはVALORANTのオフシーズン公式イベントという位置付けですが、VALORANT大会は国内のeスポーツ総視聴時間(2023年4~6月)の約56%を占めているというデータもあり、国際大会の“Masters Tokyo”が日本で開催されるなど今人気のタイトルです。22年にさいたまスーパーアリーナで開催されたVALORANTの大会では来場者が2日間で2万6000人を突破し、日本は世界の中でも熱気のある国のひとつになってきています。「また日本で試合をやりたい」という海外プレーヤーもいるくらいに、土壌が整ってきています。

 

話している柏木さんの写真

柏木さんは「成長するeスポーツ市場でビジネスチャンスをつかみたい」と意気込む

 

日本では2018年が「eスポーツ元年」といわれており、その頃の国内市場は48億円でしたが、22年には125億円(※)に拡大しました。eスポーツ事業で上場する企業も生まれていますし、25年度には217憶円市場になると見込まれています。JFRグループとしては、成長市場に対していち早く手を打ち、ビジネスチャンスをつかみたいと考えています。

※業界団体「日本eスポーツ連合」の推定

 

 

グループになることで可能性が拡大

ゲーム事業でこれからチャレンジすることは


 

 

―Hype Upを発足したのも、eスポーツとともに成長を目指すという本気度の表われなのですね。

 

西澤:パルコとしても、新しいデジタルエンタメの領域へ踏み込んでいきたいと考えていて、以前からゲームやデジタルに関する施策をプロジェクトベースでトライし、手応えを感じていました。パルコには、これまで色々なエンタメ、カルチャーを発信してきたというバックボーンがあります。カルチャーとしても存在感を増しているゲーム業界に本格参入していくことを決め、23年9月にエンタテインメント事業部コンテンツ事業担当ゲームチームという、ゲーム専任部門を立ち上げました。そして、ゲームチームの取り組み第1弾として、XENOZの力を借りてHype Upを発足しました。

 

金濱:XENOZは、運営するeスポーツチーム「SCARZ(スカーズ)」のIP(知的財産)を主軸に事業活動を行ってきましたが、XENOZとしてのIPをもう一つ確立し、マネタイズしていくことを模索していました。その中で、大会ブランドの立ち上げという構想が浮上しました。そのタイミングで、VALORANTを開発運営しているライアットゲームズ社がオフシーズン公式イベントの企画コンペを世界的に実施することを知り、これに応募したんです。VALORANTの公式オフシーズンイベントとしてのお墨付きを得ることができれば、新しい大会を認知してもらうための追い風になると考えました。

 

運営スタッフとして会場内を回る3人の写真

運営スタッフとして会場内を動き回り、進行や客席の様子に目を配る3人

 

 

―XENOZは、JFRにグループインしたことで変化はありましたか?

 

柏木:グループのリソースを活用できるというメリットは大きいですが、自社のためだけでなく「グループシナジー」という視点を持つようにしています。グループイン当初からパルコの執行役員(エンタテインメント事業部担当)がXENOZの会長に就任し、私はJFRから出向しました。さらに社内公募などで集まったメンバーとともに、グループ内の連携を推進しているところです。

 

金濱:顕著な変化はイベント開催ですね。ファンとの接点となるイベントは重要なのですが、少人数のスタッフで会場選定からオペレーションまでを担うのは大変で、グループイン前は開催回数にも規模にも限りがありました。しかしグループインによって人材、会場(店舗)、ノウハウなどを提供してもらうことができ、イベントを開催する機会が圧倒的に増えました。PARCO劇場を借りたパブリックビューイングにはのべ1,000名ものファンを集め、他のeスポーツチームと比較してもリアルイベントの開催力は高いと思います。これはXENOZの強みだと実感しています。

 

もう一つの大きな変化は、会社としての基盤が整えられたことです。これまではスタートアップ企業ということもあり、スピード感を優先して0→1を生むようなプロジェクトも多かったのですが、JFRグループになったことで経営や人事、財務などの専門人材からサポートを受けられ、1を10にしていくための基盤がつくられてきています。

 

柏木:eスポーツにはグループシナジーをもたらすポテンシャルがあると感じています。グループイン後、PARCOやギンザシックスなどでイベントを開催しましたが、PARCOやギンザシックスを利用したことがないというZ世代が多く、JFRグループにとって潜在的な次世代顧客であるZ世代との接点を持つことができました。

 

 

―日本のeスポーツの発展のために必要なこと、大切にすることは何でしょうか。

 

柏木:社外でeスポーツの話をすると「知ってはいるが、見たことはない」という方が多くてもったいないと思います。リアルスポーツは、自分ではやらないけれど観戦するのは好きという方はたくさんいますし、むしろそういうファンに支えられているわけですが、日本ではeスポーツを「見る」という認識がまだ浸透していません。世界に目を向けると大勢の人が観戦で熱狂しているので、まずはたくさんの人に見てもらう機会をつくることが重要だと思います。

 

また、ビジネス視点からもeスポーツには様々なチャンスがあると感じていて、例えば、eスポーツ観戦の中心になっているのはZ世代ですが、彼ら彼女らの推し活としての盛り上がりを見ていると、スポーツという括りではおさまらず、ライブエンタメ領域にまでビジネスを広げるポテンシャルがあります。パルコと連携し、ビジネスとしてより多くの人が関わることも、eスポーツをカルチャーとして根付かせるカギになるのではないでしょうか。

 

西澤:パルコとしては、eスポーツ事業を一つの柱に持ち、XENOZと共に成長させていきたいと思っています。柏木さんのおっしゃる通り、連携することで新たな事業が生まれる可能性もあると個人的には感じています。

 

一方で、新しいコンテンツを育てることも重要です。ゲームチームでは、ゲームソフトやIPに関する事業をもう一つの柱にしていこうと考えていて、注目しているのはインディーゲーム。音楽と同じようにインディーと呼ばれる領域がゲーム業界にも存在し、低予算や少人数、個人での開発が特徴で、新たなクリエイターの意向が発揮されやすい領域です。パルコは元来そういった新進気鋭のクリエイターやカルチャーと向き合ってきた歴史があるので、相性はいいのではないかと思っています。

 

金濱:パルコとの連携で可能性が大きく広がるのを感じます。(XENOZの)代表の友利や執行役員で総監督の遠藤は、日本のeスポーツ黎明期にプロとして活躍しており、XENOZとSCARZは日本から世界で戦えるチームを輩出するというビジョンを持っています。これからも、このビジョンを実現することを忘れずにビジネスを発展させていくことが大切だと思っています。

 

西澤:XENOZとの協業で私たちも勉強になりましたし、eスポーツの発展に向けてビジョンを共有できたことも良かった。今後もXENOZと連携し、パルコが培ってきた音楽や演劇など既存のエンタテインメント事業と絡めて、新しいeスポーツシーンの創造を追求していきます。

 

 

3人で話している写真

eスポーツの将来、SCARZの夢について語り出すと話は尽きない_。

 

 

 

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PROFILE

  • 西澤 優一

    株式会社パルコ エンタテインメント事業部 コンテンツ事業担当 ゲームチーム 業務部長

     

    2007年入社。以降、名古屋店や福岡店など各地のパルコ店舗で約16 年間宣伝業務や動員企画を主に担当し、2023年9月より現職を担当。ゲームや e スポーツの領域で新たな事業を創り出すことを目指し活動。

  • 柏木 敏弘

    株式会社XENOZ 代表取締役副社長

     

    2003年⼊社。⼤丸神⼾店、ニューヨーク駐在事務所、経営企画室、⼼斎橋新店計画室などを経て、19年から22年はJFRこどもみらい代表取締役社⻑を務める。マーケティング、新規事業開発、会社経営などで培ってきた知⾒をXENOZの経営基盤強化に⽣かす。

  • 金濱 壮史

    株式会社XENOZ コミュニケーション部執行役員

     

    2014年にマーケティング支援会社入社後、大手証券会社とのジョイントベンチャーへの出向等を経て、2021年4月より個人事業主としてXENOZの仕事を始める。2021年10月に入社。共著「いちばんやさしいInstagramマーケティングの教科書(2016)」