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2024.02.14

端材の再生でサステナブルな未来を描く。大阪芸術大学×J.フロント建装のアップサイクルプロジェクト

端材の再生でサステナブルな未来を描く。大阪芸術大学×J.フロント建装のアップサイクルプロジェクト
2022年にスタートした大阪芸術大学とJ.フロント建装との産学連携プロジェクト「端材に命を吹き込む」。J.フロント リテイリングのグループ会社の1つで、建築・内装工事などの事業を展開するJ.フロント建装の工場から排出される端材を、学生のアイデアによって新たな作品に再生する、アップサイクル・コンペティションです。2回目の開催となる2023年は、「起資回生」と題し、大阪芸術大学デザイン学科の授業の一環として実施。12月8日に受賞作の表彰式が行われました。このプロジェクトの概要や意義について、開催に携わったJ.フロント建装のメンバーをはじめ、教授や学生に話を聞きました。

取材:櫻井靖子  撮影:津久井珠美

 

学生の発想を生かして“廃棄物”の端材をアートに昇華


 

J.フロント建装は、かねてより家具・什器などの製作過程で発生する端材を廃棄せずに、有効活用する方法を検討していました。社内・大学との検討を経て「産学連携で端材を活かす企画に取り組む」というアイデアが生まれたとのこと。そのアイデアが実を結び、2022年から国内最大規模の総合芸術大学である大阪芸術大学と協力し、「端材に命を吹き込む」プロジェクトがスタートしました。

 

この取り組みは、学生の主体性や自由な発想を尊重しているところが特徴的。2023年のコンペティションのタイトルは、学生の発案により「起資回生」に決定しました。このタイトルは、使い道がなく廃棄するしかなかった端材をアイデアによって「新しい何か」に生まれ変わらせる、という当プロジェクトの狙いと「起死回生」をかけたと言います。初回は同社が運営事務局を務めましたが、2回目となる2023年は開催に向けての準備・運営も学生が担当しました。

 

エントリー期間は2023年6月23日〜7月28日。大学内での展示は11月25日から行われ、12月8日、総合体育センター内の展示スペースにてコンペティションの表彰式が行われました。16点の応募作品の中から、同社の社員の投票を踏まえた社内審査により最優秀賞、アート賞、デザイン賞、クラフト賞を決定。各受賞者には表彰状と賞金が同社から贈呈されました。昨年は同社の工場から排出する木端材・ミラーフィルムなどでしたが、本年はそれらに加え高級家具に使用されていた在庫生地を提供し、賛同いただいた同社のサプライヤーからも石材、金属など多様な素材を提供されたことで、応募作品も前回よりさらにバラエティに富んだものとなりました。

 

 

初回からコンペティションの開催に協力している、大阪芸術大学デザイン学科の石津勝准教授は、次のように評価しました。

 

「豊かなアイデアによって木材や石材、金属、布地などの端材から新しいものを生み出していると実感した。また石琴やソファなど見るだけでなく聴く、触れるなど五感が刺激される作品が多く、興味深かったです」

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企業との取り組みは学生が社会に出る前段階として、外部と接する経験にもつながると語る石津先生

 

 

サステナブルな社会の実現に向けた取り組みに期待


 

表彰式では、J.フロント建装の𠮷村穣代表取締役が挨拶。「製品を作る際に出た端材は廃棄せざるを得なかったり、使い道が見つからず保管されたままだったりしたもの。このプロジェクトを通してSDGsに繋がり、非常に嬉しく思います。できれば来年以降も続けていきたいですね」とコメントしました。

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昨年から始まった、大阪芸術大学さんとの取り組み以降、産学の連携を深めることができた。今後は地方公共団体さんとの取り組みも強めたいと語る𠮷村社長

 

今回のコンペティションの意義について、石津准教授は大学の枠を超えた挑戦を挙げます。

 

「J.フロント建装と共同でコンペティションを開催したことで、大学の授業とは異なる経験になったと思います。授業で作品を制作する際は、デザインを考え、そのデザインに適した材料を選ぶというプロセスが一般的ですが、このコンペティションでは、まず、目の前に材料があって、その材料を活かすためにデザインを考えるという、プロセスが逆転しているところが面白いと思っています。

アート、デザイン、クラフトなど分野やジャンルを問わず、審査はすべてJ.フロント建装にお任せしています。その意図は『自由度がある分だけ、考えてほしい』からです。様々な端材をどう活かして制作するか、大いに悩んで表現の幅を広げてくれたのではないでしょうか」

 

 

昨年このコンペティションを立ち上げた、J.フロント建装 経営企画部の塩田貴之さんは、立ち上げの経緯と2年間の成果をこう振り返ります。

 

「私たちグループは、持続可能な社会の実現に向けて取り組むべき7つの重要課題の一つとして『地域社会との共生』に尽力しています 。当社もオフィスや工場がある地域のコミュニティのみなさんや、大学などの教育・研究機関、地方公共団体のみなさんとの取り組みを深めています。

 

以前からリクルート活動などでお世話になっていた大阪芸術大学さんとお話をすすめた結果、当社が排出する端材の有効活用と、学生さんが持つ豊かな想像力と柔軟なデザイン力を活かした創作機会の提供につながる、アップサイクル・コンペティションの開催を実現しました。学生のみなさんは、アイデアが豊富で、コンペの主旨もよく理解してくれていると感心しています。

 

本年は、サプライチェーンの2社からも石材と金属の端材を提供いただき、作品に活かしていただくことができました。もう一つの重要課題である『サプライチェーン全体のマネジメント』にもつなげていくことができたと思います」

 

同じく、J.フロント建装 経営企画部の天野奈緒さんは、次のように話します。

 

「プロジェクトを通して、学生のみなさんのアイデアはとても柔軟で、私自身は想像していなかった端材の可能性を感じました。審査の過程で、社員投票を行っていますが、『私の創作意欲も掻き立てられた』『自分の子供に使わせたいと感じた』など様々なコメントが寄せられ、多くの刺激を得ることができていると思います。一方で、社内の『サステナビリティ意識』の浸透にも一役買っていると感じます。

 

今は『端材』を『アート』にアップサイクルし、外部展示を通じて出来上がった作品を知っていただくという取り組みにとどまりますが、今後も周囲の協力を得ながら徐々に発展させて、より多くの皆様に学生のみなさんのアイデアを紹介できる場面を作りたいと考えています」

 

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昨年からこのコンペティションを担当している、J.フロント建装の塩田さん(左)と天野さん(右)

 

表彰式に参加した学生に意見を伺うと「普段の授業とは違う試みで刺激を受けた」「複数のメンバーで取り組むことで、1人では出ないアイデアを生み出せた」「これから端材を使って、未来に活かせる物を作っていけたら楽しいと思う」という、未来につながる感想が印象的でした。

 

人々の環境への意識が高まるにつれ、従来の大量生産・大量消費・廃棄を前提とした一方通行型の経済システムから、廃棄物の発生を抑制し限りある資源を効率的に利用する循環型社会への転換が進んでいます。

 

そのような流れの中、JFRグループはサステナブルな社会の実現に向け、様々な取り組みを行ってきました。今回のプロジェクトもその取り組みの1つ。廃棄物と見なされていた端材を通して、作品づくりの情熱にあふれた地元の大学生と繋がることで、「廃棄から再生へ」という道が拓けました。

 

2024年3月20日(水・祝)から24日(日)まで、大阪市中央区の大丸心斎橋店にて、第2回コンペティションに応募いただいた作品を展示する予定です。これからも、サステナブルな社会の創造に向けたJ.フロント建装の取り組みにご注目ください。


 端材を活かす、コンペ参加者の思いに迫る


 

受賞作品の制作者と、ポスター制作者にそれぞれの作品に込めた考えを伺いました

 

 

<受賞作品と受賞者コメント>

▽最優秀賞「Hezai」 (左)南藤 朗浩さん/(右)白草梨津己さん

 

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個性的な木組みと座面が印象的なソファは、材料を選んでいる時に偶然、見つけたものだそうです。「木組みのフォルムの美しさを活かそう」と2人の意見が一致し、ソファに決定。内側の木組みもしっかり見えるよう、布地を貼らず立体的な座面にしました。「端材や布地でも、いろんな使い方があるということを伝えたかった」と語ってくださいました。

 

 

 

 

▽アート賞(先進的な表現を有した作品)「食物連鎖」 (左から)本村 優空さん/桑村 佳歩さん/小野 桃花さん/三好 愛璃さん/堀江 志歩さん

 

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端材を使い食物連鎖の流れを表現。最下位にいるプランクトンから最上位にいるライオンまで、サイズに差をつけました。意識したのは「木の質感を消さないこと」。「きれいにし過ぎると作り物という感じが出てしまうので、整え過ぎないよう注意しました。5人でアイデアを出し合うのはとても楽しかったです」と笑顔を見せてくれました。

 

 

 

 

▽デザイン賞(課題解決や意匠性に優れた作品)「身近な音」 中村佳奈子さん

 

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削る、割るなどの加工をせず、もともとの石材をそのまま用いた「石琴」。「石の温かみや魅力を大切にしたかったので、あるがままの形を活かしました」と中村さん。制作をする中で、石材がどんどん身近になり、愛着を感じたといいます。この経験を通して「これは使い道がない」などの固定観念を持たずに制作していきたいと意気込みを話してくれました。

 

 

 

 

▽クラフト賞(素材技術や実用性に富んだ作品)「reproduction」 石井 香穂さん

 

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ジャケットを制作した石井さんは、ソファの表地に使われていた茶色の布地に一目ぼれ。「本格的な洋裁は初めてでしたが、この布地の魅力をどうしても活かしたくて」と話してくださいました。襟元や肩口は手縫いであえてほつれさせ、クラフト感を出しました。もちろんトルソーも端材を用いた手作りです。

 

 

 

 

運営委員(2名)

作品名「木の流れと生彩」 小畑雄暉さん

 

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今回、運営委員としてポスターを制作した小畑さん。小畑さんのデザインを元に、共に運営を担当した藤恵さんが、ポスターとしてレイアウトしたそうです。

コンペティションに応募した作品は端材を積み重ねて接着し、周囲を削り出した上で側面に穴を空けて着色したもの。「木の温かさ、柔らかさ、手触りがとても好きなので、作っている間はとても楽しかった」と振り返ります。

 

 

作品名「端材のみを用いたアクセサリー」 藤恵太輝さん

 

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事務局と自分の作品制作を担当した藤恵さん。コンペティションのポスターは小畑さんとの共同制作、展示を告知するポスターは、一人で制作しました。

コンペティションの応募作品について、昨年は「端材を活かし、新しい何かにする」というコンセプトに沿ったデザイン考案に苦労したそうです。今回は端材やステンレス、石材などを使ったアクセサリーを制作し「素材の持ち味を活かすことを最優先に考えて制作した」と語ってくださいました。

 

PROFILE

  • 大阪芸術大学 芸術学部デザイン学科 准教授

     

    1982年京都市立芸術大学美術学部造形学科を卒業後、高校教員として美術及び工芸科目を担当。その後ディスプレイ会社に入社、飲食・物販などの店舗デザインや博物館・資料館などの展示デザインを行う。2000年フリーランスとなり現在に至る。

    主なデザイン物件に、阪急百貨店、滋賀県多賀町博物館、普賢岳災害記念館他。

    主な入選受賞に、ディスプレイデザイン賞、ナショナルライティングコンテスト、朝日現代クラフト展他。

    京都市立芸術大学美術教育研究会、インテリアプランナー協会に所属。

  • 株式会社 J.フロント建装 経営企画部


    1982年株式会社大丸(当時)入社。京都店家庭用品、家具などリビング関係部署に15年勤務後、1997年J.フロント建装の前身である装工事業部に異動。

    装工事業部の分社独立後は主に家具販売、企画、総務・人事部門を経験し、近年サステナビリティが経営の重要な要素となる中、現在は経営企画部メンバーと共に地域社会との共生と企業のブランディングの観点から産学官連携を重点テーマとした企画と運営を担当。

  • 株式会社 J.フロント建装 経営企画部


    内装・家具業界での経験を経て、2022年7月、J. フロント建装入社。

    経営企画部にて戦略策定やDXを推進すると共に、主に地域社会との共生・産学連携取り組み等のサステナビリティ活動の運営・広報を担う。