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2024.01.09

街を愛し、街に愛され、街と共に発展する。大丸神戸店の唯一無二の歴史とこれから

街を愛し、街に愛され、街と共に発展する。大丸神戸店の唯一無二の歴史とこれから
1913年に誕生し、神戸元町のランドマークとして神戸っ子に愛されてきた大丸神戸店。全国に先駆けて店舗の周辺開発を通じてまちづくりを推進するという、百貨店の役割を超えた取り組みを行ってきました。これまでまちづくりにどう関わってきたのか、大丸神戸店長の松原亜希子さんと、周辺開発に携わる営業推進部マネージャーの石川景子さんにお話を伺いました。

取材・執筆:西村陽子 編集:末吉陽子 撮影:宇津木健司

 

 

旧居留地の近代建築を生かし、大丸神戸店を軸にしたまちづくりをスタート


 

――大丸神戸店(以下、神戸店)は1987年から、神戸港開港時代の歴史的建造物が多く残る旧居留地で周辺開発を進めてこられました。どのような取り組みなのか、概要について教えてください。

 

松原亜希子店長(以下、松原):神戸店の店舗周辺に、大丸神戸店のコンセプトに合ったブランドやショップを誘致、展開することで、街全体の価値を高める取り組みです。店舗が「点」で成功するのではなく、店舗が起点となり、「面」として街の魅力や価値を最大化することを目指しています。現在、JFRグループは<人をつなぎ、街を共創する>という地域のサステナビリティに繋がる取り組みを推進していますが、そのルーツは神戸店です。

 

神戸店が位置する旧居留地において、周辺店舗開発の特徴は、近代建築を含めた街並みを生かしている点です。明治時代に神戸港の開港を機に、旧居留地は外国人の住居や仕事場として栄えました。その頃に建てられた重厚な建築物そのものの魅力を生かし、本物志向のブランドのショップを展開することで、特別感のある街を作ってきました。

 

旧居留地は近代建築が残るだけではなく、山が見え、海風が吹き、汽笛が聞こえる、非常に美しい唯一無二の街です。電線が地中化されており、景観への配慮も行き届いています。われわれの開発にあたっても、見える場所に自動販売機を設置しないなど、日常を出来るだけ排除し、街歩きを楽しんでいただけることを大事に考えています。

 

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「旧居留地は近代建築が残るだけではなく、山が見え、海風が吹き、汽笛が聞こえる、非常に美しい唯一無二の街」と、街への思いを語る大丸神戸店の松原亜希子店長

 

――周辺店舗開発はどのような経緯でスタートしたのでしょうか?

 

松原:1986年に就任した長澤昭店長が、大丸神戸店の再生プロジェクトをスタートしたことに端を発しています。神戸の元町はもともと商業地として栄えていましたが、1970年代から鉄道の拠点である三宮が商業の中心地になりました。活気を失った元町は日が暮れると人通りが途絶えるほど寂れ、大丸神戸店は時代から取り残された百貨店になっていました。

 

長澤店長は「愛する元町と神戸店を何とか立て直したい」と決意。しかし、主要ブランドは三宮の競合店に押さえられ、店舗の魅力は大きな差がついていました。そこで、長澤店長は起死回生の思いで1987年神戸店の全館改装を実施。本館の改装ではヤングファッションの強化を目指しましたが、出店交渉は厳しい状況が続いたそうです。


その頃、長澤店長が出会ったのが、当時サザビー(現サザビーリーグ)の社長だった鈴木陸三さんです。サザビーは渋谷に複合型ライフスタイルショップ「リブ・ラブ・イースト」を展開していました。神戸を訪れた鈴木社長は、倉庫や従業員の福利厚生施設として活用していた建物(現旧居留地38番館)を見て、一目で気に入り「この建物に是非とも出店したい」と申し出られました。この建物はもともと明治時代に日本で数多くの西洋建築を手懸けた建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した「ナショナル・シティーバンク神戸支店」でした。

 

鈴木社長の申し出をきっかけに、近代建築を生かした周辺店舗開発の第一号「リブ・ラブ・ウエスト」が誕生しました。この開発は、神戸店に対するお取引先様の評価が変わる大きな契機になりました。

 

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ヨーロッパの街並みを思わせる重厚な雰囲気の38番館

 

松原:同じく1987年11月にオープンしたのが、駐車場の一部を改装した「ブロック30」です。当時の「ブロック30」は殺風景な駐車場ビルでしたが、長澤店長は「リブ・ラブ・ウエスト」の成功を受けて、何とかこの駐車場をうまく活用できないかと考え、知人で建築家の安藤忠雄さんに相談したところ、弟で都市計画家の北山孝雄さんを紹介いただき改装を依頼したそうです。

 

「ブロック30」の改装は、駐車場ビルの沿道側を3階まで活用し、店舗にリノベーションする大胆な計画でした。リノベーション後は、海外では人気でも、日本ではまだメジャーではなかったプラダやエンポリオアルマーニがそれぞれ日本1号店として入居しました。また、当時は珍しかったセレクトショップやレストランも入居し、これも大きな話題となりました。

 

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駐車場の1階から3階までを大胆に店舗に作り替えた「ブロック30」

 

――「リブ・ラブ・ウエスト」と「ブロック30」の開発は話題になったそうですね。

 

松原:当時全国から視察が相次いだことを覚えています。広域から足を運ばれるお客様も増加しました。こうした状況を受けて、神戸店はさらにギアを上げ、本格的に旧居留地のまちづくりに着手することになりました。大丸が所有する建物のみならず、旧居留地内のビルを大丸が借り受け、そこにブランドを誘致するスタイルで、周辺店舗を充実させながら街並みを形成してきました。

 

また、この街並みを気に入られたお取引先様から出店の申し出をいただいたり、「自分たちも街の作り手として参加したい」という志を持った方々も集まられたりと、多様なステークホルダーの皆様とともに旧居留地の開発を進めていきました。

 

しかし、今日まで順風満帆だったわけではありません。今も胸が痛みますが、多くの人命を奪った1995年の阪神淡路大震災は、神戸店や旧居留地の街並みに大きな被害を与え、多くの人に愛された歴史的建物がいくつも失われました。ただ、この街には神戸店だけでなく、旧居留地連絡協議会さんなど、街を美しく保ちながら価値を高めていこうと尽力されている方々がいます。旧居留地を愛する気持ちをもとに一丸となり、震災を乗り越え、地域の皆様にもご協力いただきながら開発を続けてきました。現在は59のショップ・ブランドが店舗を展開しています。

 

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大丸神戸店周辺のブティック(2023年12月時点)

 

街ぐるみのイベントやしかけで「滞在してもらえる」場所を創出


 

 

――神戸店では、周辺店舗と協力して街を挙げてのイベントも数々行ってきたそうですね。

 

営業推進部マネージャー 石川景子(以下、石川):旧居留地は近代建築が保存され、美しい街並みを維持しています。お客様のアンケートでも「街や店の雰囲気が好き」と答える方が一番多いです。私も就職活動のときに神戸店の先輩からまちづくりのお話を聞いて、「こんな素敵な仕事ができるのは神戸店しかない」と感動して入社を決めました。神戸店の強みを活かすためにも、この街並みをゆっくり楽しんでいただけるイベントが企画されることが多いです。

 

例えば、街を挙げてのイベントとしては2012年から継続する「旧居留地フェスティバル」があります。神戸市や旧居留地協議会さんの後援をいただきながら、神戸店が中心となって開催することもあります。ジャズライブやレストランを巡るスタンプラリー、本館のライトアップなど、街のあちこちを巡りながら楽しんでいただけるようなイベントになっています。

 

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神戸店が2023年12月2日に開催した「旧居留地ホリデイズマーケット」では、スイーツ&グルメや音楽、謎解きイベントなど街歩きを楽しめるイベントが企画された

 

2017年から3年間は、神戸店と旧居留地を舞台に「VOGUE FASHION'S NIGHT OUT KOBE in Daimaru Kobe」を、「VOGUE JAPAN」を発行するコンデナスト・ジャパン社と大丸松坂屋百貨店が共催し、トークショーや明石町筋を封鎖してファッションショーなどを実施しました。

 

ファッションの街神戸にふさわしいイベントで、本館はもちろん周辺のブランド・ショップにも限定品などで協力してもらい、盛り上がりをみせました。こうした取り組みは販売企画をはじめ、神戸店全体として、街が神戸店の財産だと理解しているからこそだと思っています。

 

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「神戸店で店づくり・まちづくりがしたい」という思いが入社の動機と語る石川さん

 

――最近の周辺開発としては、どのような事例がありますか?

 

石川:単にテナントを入れ替えるだけでなく、旧居留地の中にパブリックスペースを作るという取り組みを行っています。最近は、場の価値の転換に焦点を当てた取り組みを行っている「SKWAT」のメンバーの皆さんと組んで、遊休空間を有効活用して、街を訪れた方が休憩できるパブリックスペースを作りました。

 

神戸店は近代西洋風建築によって形作られた、かつての街並みの良さを現代に「継承」し、「旧居留地」として、世界に「開かれた」場所を築いてきました。その意思をひも解いた上で、パブリックスペースでは1868年にJ.Wハートが設計した神戸外国人居留地の当時の建築的特徴である「屋根瓦」と、次のテナントへ「継承」する素材として「LGS(軽量鉄骨)」を組み合わせた場となっています。

 

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大丸神戸店とSKWATがコラボして手掛けたパブリックスペース

 

旧居留地にしかない価値を高め 地域とともに発展していきたい


 

――今後、元町エリアをさらに魅力的にするために、どのようなことを展望されていますか?

 

松原:神戸店の本館も含めて旧居留地というローカルならではの唯一無二の環境リソースと、神戸が持つ国際性を融合させ、「グローカル」な価値を提供し、さらなる成長へ繋げていきます。

 

神戸では、2025年から神戸空港の国際化を見据えたチャーター機就航がスタートし、2030年迄には湾岸開発や待望の5つ星ホテルの誘致、元町駅周辺のエリア整備と目白押しです。2030年頃までに起こる外部環境変化の大波にうまく乗るため、国内外の富裕層の取り込みに向け手を打っていくとともに、ゴルフ発祥の地である神戸らしく「ゴルフツーリズム」についても行政と連携して実験をスタートさせました。

 

また、断続的ではなく、連続して街を訪れていただけるように、街の魅力化を進めていきます。その方法の1つは、ナイト・マーケットへの充実です。旧居留地エリアに飲食店が少ないこともあり、美しい景観を楽しめる時間帯に、ほぼ人通りがありません。神戸にはバーの文化もありますので、地元と連携して素敵な飲食店を誘致して、長時間滞在し、夜の時間帯も楽しめる街にしていきたいと考えています。

 

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石川:神戸店の本館にランドマーク的な場所を作れないか計画中です。神戸店の前身(兵庫店)が今とは別の場所にあった頃、目の前に大きな桜の木があって地域の皆さんが集っていたそうです。例えば、大丸神戸店の屋上に桜の木を植えて、お客様にお花見を楽しんでいただける場所にできたらと考えています。買い物だけではなく、非日常を楽しむ場所として、本館を含めて街全体を楽しんでもらえるような企画を考案したいですね。

 

――最後に、神戸店や周辺店舗の開発において大切にされていることを聞かせてください。

 

石川:古いものを大切にしながら街を発展させるためには、地域や行政など地元の皆さんと協力しながら、建物の保存や景観の維持に努めることが大切だとひしひしと感じています。

神戸店のように百貨店を中心に古い建物を生かしながら店舗開発を行い、街の価値を高める取り組みは、日本では例がないと思うんです。神戸の魅力、神戸の人の大切にするものに向き合いながら、今後もまちづくりに取り組みたいです。

 

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松原:地元の方々から「最も神戸らしい街並みはこの旧居留地しかないのではないか?」とお声をいただくことが多々あります。本館を含めて旧居留地は、まるで日本でないような感覚や非日常を感じられるように、丁寧に作りこまれてきた経緯があります。

 

阪神淡路大震災の復興計画に携わった神戸店の森範二店長は、「神戸のゲストハウス」をコンセプトに掲げ、様々なことに取り組みました。神戸店は震災後の仮設営業の時でさえ、商品を安く販売したりせずに、お客様の生活の潤いに寄与する商品を販売することにこだわったほど、特別なひとときを過ごせる空間を大事にしています。

 

全国でも唯一無二の環境を生かしながら、街と一体化している神戸店はこれからも「お客様の心のファーストマインドストア」として次世代にも継承され、憧れを抱いて来街してくださるお客様を増やしたいと考えています。「地元が誇れるランドマーク」であり続けるために、価値を高め続けることにこだわって、開発を進めていきます。

PROFILE

  • 松原 亜希子

    大丸松坂屋百貨店 執行役員 大丸神戸店長


    大丸入社後、大丸神戸店で長年周辺店舗開発に携わり、その間、2001年神戸店 周辺店舗部マネジャー、2007年神戸店 周辺店舗開発部長に就任し取り組みを推進する。その後、神戸店 婦人服飾部長、大丸芦屋店長、松坂屋上野店長などを歴任し、2019年大丸松坂屋百貨店執行役員 大丸東京店長に就任。

    2023年3月より、執行役員 大丸神戸店長に就任。

  • 石川 景子

    大丸神戸店 営業推進部 マネジャー


    大丸入社後、大丸神戸店に勤務。婦人雑貨子供服部での店頭接客や、営業推進部でのPR広報担当、販売促進担当などを経て、2017年から店舗戦略を担当する。

    2023年9月から営業企画マネジャーとして、戦略・店づくり・周辺店舗開発・オペレーション・業績管理など担当範囲のマネジメントとまちづくりに取り組む。