2023.10.16
他社留学プログラムでつながった縁から、ファンコミュニティを共創する仲間へ
取材・執筆:苫米地香織 撮影:小野奈那子
社内では得難い成長につながる他社留学プログラム
―『他社留学プログラム』とは画期的だなと思いましたが、勝又さんが手を挙げた理由は?
パルコ コラボレーションビジネス企画部 勝又詩織(以下、勝又):新卒入社して8年半、全国4店舗のPARCOで働いてきました。イベントを企画したり、プロモーションチームのリーダーになったり、身近な目標は達成できてきましたが、この先のキャリアをどうするか決めかねていたときにこの制度が始まりました。パルコに籍を置いたままで、社内ではできない体験ができると思い、チャレンジしたいと手を挙げました。
社内ではできない体験を得る機会と捉え、他社留学プログラムに手を挙げた勝又さん
―逆に小原さんは何故、他社の社員を受け入れようと思われたのでしょうか。
TieUps代表取締役社長 小原史啓(以下、小原):この制度に携わっているベンチャーキャピタルから1回目の実績を伺い、興味があるとお伝えしました。以前より、会社の人材に多様性があることが大切だと考えていて、それは人種や性別だけでなく、立場的な多様性も必要だと思っていました。スタートアップ企業は「こんなものを作りたい!」という熱心な人が集まりやすい環境です。そこに対して、社外の考えをお借りすることができるのではないかと思いました。
TieUps代表の小原さん。「会社の人材には、人種や性別だけでなく、立場的な多様性も大切」と語る
―いくつか出向先候補があったと思いますが、その中でTieUpsに行くことにしたのは?
勝又:SNSマーケティングに興味があり、それができる会社を探していました。事前資料を見た中で、SNSのまとめサービスとして「lit.link」を知っていたので、商材もそのマーケティングに関われることも魅力に感じました。また同時期にコミュニティに力を入れているキャリアスクールで学んでいたこともあり、「WeClip」にも興味が湧き、この会社なら自分がやりたいことができるのではないかと感じました。それから行くとなれば何かしらパルコに持ち帰ってきたいと思っており、それがターゲット層にも親和性のあるTieUpsであれば実現できそうだと考えたからです。
いくつか出向先候補もありましたが、TieUpsとは面接というより柔らかい面談のような雰囲気でお話できたことも印象に残っています。
小原:それは良かったです。はじめは最低でもOJTとかした方が良かったのかなと思いましたが、そこまで手が回らず、むしろ自主的に課題を見つけてもらわないといけない状況でした。その点で勝又さんのポテンシャルの高さが、TieUpsにマッチしたのではないかと思います。面接の時点で、とても主体性のある方だと感じていました。
―スタートアップならではのエピソードですね。では、TieUpsについて教えていただけますか。
小原:当社はコロナ禍の2020年4月30日に創業しました。共同創業者の工藤と共に様々な事業を検討する中で、「会社を作るのは人だ」という結論に辿り着き、二人ともクリエイターエコノミーと言われる個人クリエイターが活躍する経済圏をつくることに興味があったことから、この社名を考え、「lit.link」や「WeClip」といったサービスを立ち上げてきました。
今年10月からは第二創業期と位置づけ、もう少し広くコミュニケーションに関わるテクノロジー企業を目指し、“ディープコミュニケーションテック企業”と謳っています。具体的には、この10年近くでSNSが浸透し、様々な情報伝達の仕方ができて、見ているメディアも人それぞれ、要は“個の時代”です。そこで広く浅く情報発信しても情報シェアは少ないのであれば、深く狭いコミュニケーションがこれからは大切なのではないかと考え、ディープコミュニケーション領域を研究・追求していくことにしました。
一般的には「SNSはフォロワー数が多いと影響力がある」と言われていますが、果たしてフォロワー全員にその情報が伝わっているかというと定かではありません。1万人フォロワーがいても、その情報を理解して受け取れている人は多くても3~5%といわれています。
反対にフォロワー数が100人程度でも“ファン”といわれる人たちであれば、同じ情報を流しても確実に受け取り、理解もしてくれます。広く浅い一次情報を出した後からの、ファンが広める二次情報の流通が重要だと考えています。ファンが周りにどれくらい広めるか、伝搬数がどれくらいになるのかを研究し、可視化していこうとしています。
「lit.link」は、スマートフォンだけで複数の SNS アカウントをまとめた自分だけのプロフィールサイトを作成できる。190 万人のユーザーのうち、Z世代が6 割を占める
―そんなTieUpsで勝又さんは半年間どんなことをされたのでしょうか。
勝又:ユーザーコミュニケーションを軸にいろんな業務をさせてもらいました。主にコミュニティ運営、SNSやメルマガ発信などのウェブマーケティング、他にもカスタマーサポートや商品制作、イベント運営の補助など、様々な領域に携わらせてもらいました。
後半はJ.フロント リテイリング(以下、JFR)のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)である『JFR MIRAI CREATORS Fund』(以下、JMC)からの資金調達に関わる業務へかなりの時間を割いていました。
―いろんな業務の中で大きな気づきになったことは何でしょうか。
勝又:一番は、いままでパルコでしてきたプロモーションの仕事がマーケティングというアプローチとは異なっていたのだと改めて考えさせられたことです。また、TieUpsという社名と「lit.link」「WeClip」というサービス名が同じ名称ではないためにイメージが紐づきづらい中で、どう認知を深めるかを考えることができたのも、とても新鮮な経験でした。総じて、ユーザー(=お客様)について今まで以上に解像度を高めて考える良いきっかけになりました。
運と縁とタイミングに恵まれ、コミュニティを共創する仲間に
―他社留学の後半では資金調達業務に携わっていたとのことですが、それが今年の6月に発表されたJFRとの出資・業務提携につながるのですね。
小原:そうです。我々も資金調達のタイミングで、いろんな会社と交渉していた時期でした。ですが、いざ始めてみると我々の考えていることが相手に伝わらず、決断に至らないことも何度かありました。
勝又:私が出向しはじめた翌月にJMCが立ち上がったんです。JMCへパルコから行った者がいたので、スタートアップへ出向している自分にも関係しそうだと思い、詳しく話を聞くことにしました。
小原:同じタイミングで、私はそのファンド担当者(イグニション・ポイント ベンチャーパートナーズ)にプレゼンをすることになっていました。そのときにJMCの話を聞き「終わったら勝又さんにも話してみよう」と思って、プレゼン終了後に席を立って振り向いた瞬間に、勝又さんから「親会社にCVCができました」と言われてそのタイミングに驚きました。
勝又:他社留学を通して、パルコやJFRとTieUpsとのシナジーがありそうだと感じており、出資・業務提携の可能性があるのではないかと思いました。その後は小原さんやCVC担当者とヒアリングを重ねて、提案資料を作り、会議で2度プレゼンをさせてもらって提携まで結びつけました。しかも、当時CVC側で決裁したのが、現在パルコの社長である川瀬(賢二)であったことにも運と縁を感じています。他社留学がなければ自分が関わることはできなかった業務だと感じています。
小原:出資や業務提携をするには、相手先に一人でも我々のことを知ってくれている人がいることが大切で、それが決断につながるとも思っていました。今回は、一緒に働いてTieUpsの良いところも悪いところも知っている、しかもPARCOの実店舗にいた経験があって商業施設がやるべきコミュニティを理解できていた勝又さんがいたからこそ、強く一緒にやるべきだと自信を持てました。
「勝又さんが商業施設としてやるべきコミュニティを理解していたからこそ、一緒にやるべきだと自信を持てた」と、TieUps代表の小原さんは語る
―まさに運と縁とタイミングですね。現在、御社と勝又さんはどういうつながりになったのでしょうか。
小原:現在は出資を受けて、シナジーを生み出していかなくてはならないターンです。8月からスタートしたパルコのファンマーケティングのPoC(概念実証)をしっかりやって結果を出していかなくてはなりません。
勝又:私はパルコの新規事業開発担当部署に籍を置き、現在も週に1回TieUpsへ兼務出向をしながら、PoCに取り組んでいます。第一弾として仙台PARCOを起点としたファンコミュニティの運営に携わっています。
小原:出資検討の際、JFR役員から「小売出身からスタートアップは珍しいね」と言われました。家電量販店の店頭からキャリアをスタートして、販促にも携わった人間なので、常に店頭への来客をどうするか考えてきました。9年間の店頭経験で、集客手段はどんどん変化していくのを感じてIT業界へ来たので、集客とか販促の未来への渇望は人一倍強いと思います。
私が販売を始めた頃はチラシも有効な手段でしたが、それがだんだんコストになり、お客さまへの負担となるのを感じ、販促も変わる必要があると感じていました。カンフル剤のように一時的に効いて積み重ねの少ない販促のコストを下げるには、漢方のように長期的に効くコミュニティづくりやファンづくりが重要と考えています。
いまは情報の二次流通、口コミやファンが増えることが集客にどう結びついていくかPoCを重ねて、ファンづくりとその効果計測を再現性と具体性を上げて答えを出すことが、この1、2年の目標です。勝又さんからも「パルコでの検証を活かせるよう一緒に頑張りましょう」と言われて、とても嬉しいです。
勝又:私自身もPARCOの実店舗でプロモーションの仕事に携わってきた中で、単発・短期のイベントに来てくださるお客さまとの接点を長期的に持ち続けていけないかと課題に思っていました。SNSでのコミュニケーションは一方通行になりがちですが、そうではないコミュニケーションの在り方も模索していた中で、他社留学でコミュニティ運営やサービスのマーケティングを通して、課題解決につながる手段のひとつがコミュニティなのではないかと思うようになりました。
今、JFRグループとTieUpsが資本・業務提携という形でつながったことで、コミュニティ運営を通して、他社留学の機会を与えてくれたパルコやJFRグループのサステナブルな運営に寄与していけたら良いなと思っています。
8月からは仙台PARCOを起点にファンマーケティングのPoC(概念実証)が始まっている
TieUps株式会社 公式ウェブサイト(外部サイトに遷移します。) https://tieups.com/ |
WeClip(外部サイトに遷移します。) https://weclip.link/ |
lit.link(外部サイトに遷移します。) https://lit.link/ |
株式会社パルコ コラボレーションビジネス企画部 公式ウェブサイト(外部サイトに遷移します。) https://www.parco.co.jp/collaborationbusiness/ |
コミュニティ「きっこうちゃんアイランド」(外部サイトに遷移します。) https://weclip.link/c/kikkouchan |
PROFILE
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小原 史啓
TieUps株式会社 代表取締役社長 CEO/CDO
横浜美術短期大学(現横浜美術大学)卒業。『ノジマ』に入社し、同子会社の責任者や、『マクロミル』でのリサーチとマーケティング経験を経て、『SnSnap(現GENEROSITY)』の1号社員として立ち上げと事業開発を行う。2020年にブランディングプロフィールツール「lit.link」、体験型ファン育成プラットフォーム「WeClip」を開発・運営するTieUps株式会社を創業。 -
勝又 詩織
株式会社パルコ コラボレーションビジネス企画部
コミュニティマネージャー
2014年入社。全国4店舗で店舗運営・販促・PR業務を経験。22年9月より「他社留学プログラム」にてTieUps社へ出向。ウェブマーケティング等の通常業務に加え、JFR MIRAI CREATORS Fund協業によりTieUps社への出資提案を推進。23年4月より現職。コミュニティを活用した新規事業創造に従事。「コミュニティマネージャーの学校BUFF」15期認定プログラム修了。