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2023.07.10

従業員のWillを起点に。ファンド×旅のプロ×気鋭IT企業で「旅の未来」共創へ

従業員のWillを起点に。ファンド×旅のプロ×気鋭IT企業で「旅の未来」共創へ
2022年9月、J.フロント リテイリンググループ(以下、JFRグループ)は、コーポレートベンチャーキャピタル「JFR MIRAI CREATORS Fund」を設立しました。このファンドは、これからのライフスタイルや人とのつながりなどにおける新しい価値や未来の創出を目指して、外部のスタートアップに出資するために誕生しました。今回ご紹介するのは、ITで旅行業界に変革を起こすトップランナーとして注目される「Japan Culture and Technology」への出資事例。ファンドのビジョンやコラボレーションの経緯について、キーパーソンの3名に詳しく聞きました。

取材・執筆:末吉陽子 撮影:田ノ岡宏明

 

Willから生まれる好循環をファンドでアシストする


 

 

――JFRグループ初となるファンド「JFR MIRAI CREATORS Fund」。この名称には、すべての「未来を創造する人を大事にしたい」という願いが込められていると伺いました。まず、ビジョンや設立までの経緯についてお聞かせください。

 

下垣 徳尊/JFR MIRAI CREATORS Fund(以下、JMC):「未来をより良く、面白くする」をビジョンに掲げる「JFR MIRAI CREATORS Fund」は、「人々のライフスタイル(個の生活・働き方の質・時間の過ごし方)をアップデートするもの」「人と人との関わり(他者との関わり・繋がり・コミュニケーション)をアップデートするもの」を投資のテーマにしているファンドです。

 

投資先の領域は、エンターテインメント、ヘルスケア、小売業界、プロップテック(不動産・金融・資産形成)、ディープテック(WEB3・メタバース・NFT)などで、優れた技術やビジネスモデルを誇るスタートアップとの価値共創を目指しています。

かねてファンド設立の構想はあったのですが、本格化したきっかけはコロナ禍でした。緊急事態宣言で百貨店やパルコが数カ月間の休業をせざるをえず、グループ全体で未曽有の事態となりました。営業ができないことで、お客様と従業員の関係や、従業員同士のつながりが絶たれました。それにより、孤独や不安を抱えた人も少なくなかったはずです。

 

パンデミックの経験を踏まえて、改めてつながりを模索する過程で「人と人との関係をコロナ禍前に戻すのではなく、個人のライフスタイルにも踏み込んでアップデートしたほうが、より面白い未来を描けるのではないか」と考えました。

一方、これまでオープンイノベーションやビジネスコンテストを実施する中で、どうしても従来の慣習や価値観にとらわれてしまうことに限界を感じていました。その限界を打破し、継続的なイノベーションを起こすためには、未来志向の企業とタッグを組むことが最善策だろうと考え、ファンド設立に至りました。

 

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ファンドの役割は「Willに薪をくべて、より火力を強くする装置のようなもの」と言えるかもしれない。

 

――未来を面白くするために、社外の組織や人とのつながりを強化することがファンドの目的なのですね。具体的にどのようなところがファンドのユニークなポイントでしょうか?

 

下垣/JMC:一番は、従業員一人ひとりのWill(内発的動機)を具現化するために出資をしているところです。JFRグループには、お客様に喜んでいただくにはどうすればいいのか、本気で考えているメンバーがたくさんいます。その熱いマグマのようなWillを引き出し、外部のテクノロジーやノウハウと掛け合わせたら、ものすごくポジティブなシナジーが生まれるはずだと信じています。こうしたポリシーを核にしているので、ファンドの役割をたとえるなら、「Willに薪をくべて、より火力を強くする装置のようなもの」と言えるかもしれません。

 

 

 

日本の旅行を変えたい。「知性を感じる体験」への期待


 

――「JFR MIRAI CREATORS Fund」は、2023年4月に「Japan Culture and Technology(J-CAT)」に出資されました。これは、誰の・どのようなWillがきっかけになっているのでしょうか。

 

下垣/JMC:松坂屋名古屋旅行センターの近藤さんのWillです。ファンドを設立した際に、どのような企業に出資をするべきか、百貨店やパルコの約30部門・60名にヒアリングをしました。近藤さんには、色々なニーズを聞いて回る過程で出会い「こういう旅行の未来を描きたい」という強烈なWillを実感。近藤さんのWillを実現するためには、どのような企業とのマッチングが相応しいかリサーチした結果、J-CATに辿り着きました。

 

 

――どのようなWillだったのか、ぜひ近藤さんに伺いたいです。

 

近藤仁彦/松坂屋名古屋旅行センター(以下、松坂屋):「日本の旅行を変えたい」というWillです。松坂屋名古屋旅行センターは、外商のお客様向けにオーダーメイドの旅をご提案しています。一泊二日で100万円の旅、新婚旅行や生涯の想い出に残る旅、費用もニーズも多種多様な高級旅行を手掛けてきました。

 

ただ、旅を通して幸福感を最大限享受していただくには、ご本人の希望に寄り添い、提案の幅をさらに広げる必要があると思っていました。具体的には、従来のような観光スポットを訪れるという旅だけではなく、カルチャーやアートなどの体験の提案です。

とはいえ、コンテンツとして丁寧に磨き上げるには、そもそも発想に限界がありますし、日々お客様と対峙しているため時間や余裕がありません。外商のお客様は目が肥えた方ばかりですから、それ相応の内容でなくては満足していただけません。

 

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旅を通して幸福感を最大限享受していただくには、ご本人の希望に寄り添い、提案の幅をさらに広げる必要がある。

 

 

――旅行センターで抱えていた課題を解決し、Willを叶えてくれるパートナーがJ-CATだったということでしょうか。

 

近藤/松坂屋:その通りです。J-CATの体験コンテンツは、一つひとつに強烈なインテリジェンスがあります。僕はこれまで色々な旅の商品をリサーチしてきましたが、内容が素晴らしくて感心しています。

 

 

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国内向け体験予約サイト「Otonami」

 

 

 

――WEBサイトを拝見すると、重要文化財の茶室でお茶の体験や、美術作家に学ぶアートなど、上質でラグジュアリーな体験をコンテンツ化されている印象です。飯倉さん、体験の創出にあたってのこだわりをお聞かせいただけますか?

 

 

飯倉竜/Japan Culture and Technology (以下、J-CAT):われわれのWEBサイトをご覧いただくと、企画力やコーディネート力に強みがあると感じられるかもしれませんが、当社はITカンパニーとしてテクノロジーやデザインの利活用が強みの会社です。多くのメンバーがIT企業出身で、IT・デザインを活用して観光をアップデートしたいと考えて集まっています。データを駆使して分析することも強みとしており、どのような価格帯が好まれ、人気の傾向を分析して、コンテンツの企画に生かしています。色々なご縁や営業で素敵な人や場所を見つけ、コンテンツを企画したり、魅力的に見せたりすることを得意にしています。

 

 

従業員の未来に希望を抱けるコラボを実現していきたい


 

――両社のシナジーへの期待感をお聞かせいただけますか。

飯倉/J-CAT:当社は2019年創業のスタートアップですが、老舗の飲食店や伝統的な文化施設など、たくさんのステークホルダーの皆様にビジョンや想いに共鳴いただいております。様々な方々とリレーションを構築し、真に価値あるコンテンツを企画していることに自信を持っていますが、一方で顧客基盤はまだまだ強くありません。松坂屋名古屋旅行センターの皆様の協力を得ながら、顧客先を共に開拓しサービスを拡大させたいと考えています。それが、ひいては一人でも多くの方が、日本の魅力を再発見し、人生においてかけがえのないひと時を過ごせることにつながると信じています。

 

 

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今回の業務提携により、一人でも多くの方が、日本の魅力を再発見し、人生においてかけがえのないひと時を過ごせることにつながると信じている。

 

 

近藤/松坂屋:J-CATのコンテンツは、従来のレジャーとはひと味違う、文化を学べる体験が豊富なので、われわれのお得意様にも大満足していただけると考えています。すでに、J-CATとのコラボレーションで、松坂屋のお得意様にミュシュラン二つ星を獲得した料亭で、魯山人にゆかりのあるお皿や書籍の解説を聞きながら食事を楽しむというオーダーメイドの体験プランを販売しました。こちらがとても好評でした。

 

日本人は真面目で勤勉なので、スケジュール通りに旅行するのですが、そういう旅行だけではない提案をしたい。そのときに、J-CATのコンテンツとわれわれが得意とする宿泊地の手配などを組み合わせることで、自信を持ってお客様に寄り添った提案をできると考えています。

 

 

 

――両社の強みを融合させることで、顧客に付加価値が増幅するということですね。これからどのようなシナジーで、新たな体験が創出され、お客様のもとに届くのか、展開が楽しみです。最後にファンドの展望についてお聞かせください。

 

下垣/JMC:大げさに聞こえるかもしれませんが、JFRグループで働いている従業員は一人の例外もなく、全員がお客様のことが大好きで、喜んでいただける方法を真剣に考えていると思います。そんな従業員の仲間に、未来に向けた出資でグッドニュースを届けることで、希望を持ってもらいたい。「よし明日も頑張ろう」というテンションになってくれたらこんな嬉しいことはないです。出資をすることは、すなわち未来を創る取り組みです。これからもJFRグループの仲間たちが、未来に希望を抱けるようなコラボレーションを創出したいと考えています。

 

 

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「お客様を幸せにする旅」のご提供を目指す「松坂屋名古屋旅行センター」

PROFILE

  • 飯倉 竜

    Japan Culture and Technology

    代表取締役 CEO/Founder

     

    2012年に住友商事株式会社に入社し、入社以降一貫してIT関連の営業部に所属。海外IT製品のトレード営業や新規事業の立ち上げを担当後、2017年からは米シリコンバレーに駐在し、ベンチャー投資業務、CVCファンドの設立、アクセラレータプログラムの立ち上げに従事。2019年11月に当社を創業。コロナ禍のハードシングスを乗り越えて、観光業界のDXに挑む。

  • 下垣 徳尊

    JFR MIRAI CREATORS Fund

     

    2007年株式会社大丸入社。大丸梅田店で戦略立案、大型リニューアル、フェムテックをテーマとした新規PJ等に従事。J.フロント リテイリング株式会社経営企画部、事業ポートフォリオ変革推進部を経て、J.フロント リテイリング初のCVCファンド「JFR MIRAI CREATORS Fund」を企画し、立ち上げをリード。現在はイグニション・ポイント ベンチャーパートナーズ 株式会社にも籍を置き、パラレルワークで新規投資及びファンド運営に従事。

    長らくオープンイノベーション活動を推進し、社内ビジネスコンテスト主催やスタートアップ企業との共創経験を活かし、既存事業の変革とより面白い未来の創造を目指している。

     

  • 近藤 仁彦

    松坂屋名古屋旅行センター

     

    大学在学中にカリフォルニア州への渡米と欧州周遊を経験して入社し、ゴルフ売場を経て松坂屋名古屋旅行センターに配属。その後約30年以上にわたり旅行業務を担当する。主にツアー仕入れ、造成業務を行いながらお得意様とともに国内外を旅する添乗員であり、添乗日数は延べ2500日を超える。世界遺産検定1級やクルーズコンサルタントの知識を活かし、日本の47都道府県に加え世界73か国など幅広いフィールドでお客様に旅を提案している。