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2023.07.27

百貨店バイヤーが厳選した“食”のサブスク『ラクリッチ』の誕生秘話 名店の味を自宅で楽しめるセレンディピティ体験

百貨店バイヤーが厳選した“食”のサブスク『ラクリッチ』の誕生秘話 名店の味を自宅で楽しめるセレンディピティ体験
百貨店と聞いて一番にイメージする場所は、何といっても『デパ地下』ではないでしょうか。老舗や名店のお総菜や話題のスイーツなどなど、目移りするほど魅力的な、そして美味しいものが並んでいます。 しかし、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大により、今までのように気軽に足を運べない場所になってしまいました。それを機に大丸松坂屋百貨店では、新たな食のプロジェクトをスタート。プロジェクト発足からわずか1年。名店の味を自宅で楽しめる、贅沢な冷凍グルメのサブスクサービス『ラクリッチ』を2023年5月16日にローンチしました。名店の味を自宅で再現するためにどうしたらいいか、たくさんの試行錯誤を重ねてきたというプロジェクトメンバーに話を伺いました。

取材・執筆:苫米地香織 撮影:藤原葉子

 

百貨店の根幹“デパ地下”の味をお客様の自宅へ届けるために


 

 

―『ラクリッチ』はいつから、どんなきっかけでスタートしたのでしょう。

 

岡崎 路易(以下、岡崎):コロナ禍に店頭以外でお客様とのタッチポイントが必要となり、オンラインによる新規事業の立ち上げが急務となりました。第一弾としてファッションサブスクの『アナザーアドレス』がスタートし、続いてデパコスのメディアコマースの『デパコ』が始まり、満を持して食のサブスク『ラクリッチ』がスタートしました。始まりは21年の夏ごろで、当時「冷凍技術が進化した」「冷凍食品が売れている」という話を耳にして、澤田太郎(大丸松坂屋百貨店代表取締役)と新規事業のアイデアを交換する中で冷凍総菜の新しいビジネスを考えてみることになりました。そこで食品畑17年、“食のプロ”である朝倉にちょこちょこと相談するようになり、お互いにリサーチを掛けようと動きだしました。リサーチ中にお互い保冷バックをパンパンにして同じ商業施設で鉢合わせすることもありましたね(笑)。

 

朝倉 宏二(以下、朝倉):そんなこともありましたね(笑)。そもそも百貨店の店頭では冷凍食品を取り扱うことがほとんどないので、知識ゼロからのスタートでした。そこで冷凍食品の専門家である冷凍生活アドバイザー西川(剛史)さんにも協力いただきました。

 

 

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西川 剛史(以下、西川):ある程度、構想ができた22年5月頃からお手伝いすることになりました。これまでメーカーやお店など、いろんなところから相談をうけてきましたが、冷凍技術が向上したとはいえ、冷凍食品をつくるのにはコストが掛かるので中々実現できないことが多いのですが、今回は他にはない商品に冷凍を絡めた新サービスに携わることができて嬉しかったです。

 

山川:私も約1年前にこのプロジェクトにアサインされました。これまで静岡店、下関店で食品フロアの店頭販売やプロモーションに携わってきましたが、バイヤー経験はないので、今は朝倉さんの下で勉強中の身です。

 

 

―今回、立ち上げ時点で25ブランド52種類のメニューが揃いましたが、一番苦労したことはなんでしょう。

 

岡崎:百貨店と言えば“デパ地下”ですから、出店ブランドと取り組むのが一番ですが、様々な障壁がありました。まずはお客様へどういう形で届けるか。例えば直送にするか、私たちの倉庫に商品を集約して詰め合わせてお届けするのか。ラインナップは、コース料理のようにするのか、日々の献立の主菜にするか副菜にするか。冷凍するなら、自前で冷凍機器を用意するのか、ブランド側に協力してもらうかなど、あらゆるモデルケースを想定してきました。朝倉さんと冷凍機器のメーカーや冷凍食品専門のOEM工場に何社も足を運びましたね。丁度、冷食ブームもあいまって工場の稼働に空きがないところも多く、たくさん断られてきました。

 

朝倉:これまで生鮮食品や総菜・弁当の売場に長く携わってきましたが、冷凍食品に関してはまったくの素人ですから、いろんなメーカーにリサーチを掛けました。その中で小ロット対応してくれるOEM工場が見つかり、さっそく試作を始めたのですが、なかなか思ったような仕上がりにはならなかったですね。

 

岡崎:作れる場所が見つかっても、その次に各ブランドが認める味のクオリティや見た目を再現できるかという課題が出てきました。

 

 

―そもそも冷凍できないものや冷凍に不向きなものがあると思うのですが……。

 

西川:冷凍ができないものはほとんどないのですが、問題は解凍した後に美味しいかどうかですね。特に今回は百貨店に出ているレストランなどのこだわりのあるメニューですから、味の再現性についてはなおさら課題になりました。使用される食材や料理によっても解凍後のクオリティに違いが出てくるので、朝倉さんたちは大変だったと思います。

 

 

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朝倉:それに加えて、サブスクとなるとそれなりに数が必要になるので、例えばレストランのブランドでは、そのメニューが継続して安定的に生産可能なのかも課題になりました。

 

岡崎:それでいうと西洋銀座とは、いろんなことにチャレンジしましたね。パッケージにしても、見た目にもこだわるなら、店頭で販売されているものと同じようにお弁当のような容器に入れた方がいいけれど、解凍後の味の再現性を考えるとパウチの方がいいとか。パウチするにしても何パターンも試作しましたよね。

 

朝倉:西洋銀座のビーフシチューには、ニンジンのグラッセとブロッコリーが添え物としてあるのですが、一緒に冷凍してしまうと解凍後の見た目も味も悪くなるのです。見た目も大切にしたいから別々に冷凍することも考えましたが、そうすると製造工程が増えてしまい、コスト高となる。さらに野菜は解凍すると水分が抜けて、味が悪くなってしまう。そうなるとブランド側としては出せないということになります。

何度も試作した結果、お弁当容器ではなく、ビーフシチューだけを真空パックにして冷凍するということになりました。そのおかげで、解凍後の味は高いクオリティを再現することができましたね。

 

岡崎:何度も試食を重ねてきたので、最後に西洋銀座のシールを貼られた完成品を見たときは感動しました。

 

 

目標は日本の食のプラットフォーマー新たな食との出会いをつなぐ


 

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―皆さんのおすすめ、これは絶対食べて欲しいというメニューを教えてください。

 

 

朝倉:二品ありまして、一つは思い入れもある西洋銀座のビーフシチューですね。もう一つはおかず本舗 佃浅の茄子煮びたしです。老舗和総菜店の伝統の出汁がしみ込んだ、食べた瞬間にジュワっとくる商品です。何度も試行錯誤した甲斐あって、解凍後の再現性はかなりクオリティの高いものになりました。

 

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西川:同じく再現性で言えばリストランテホンダのポルチーニとエリンギのクリームソース・ニョッキですね。クリームソースの奥深さやニョッキの食感など、何度も試作して良いものができました。

 

朝倉:このリストランテホンダのメニューやおかず本舗 佃浅の茄子煮びたし、OGAWAの黒毛和牛しぐれ煮など9品がラクリッチ限定メニューです。各ブランドの基となるメニューをベースに、冷凍・解凍した時にどうなるか考えながら一緒にメニュー開発しました。

 

山川:どれも美味しいので、全部食べていただきたいのですが、オリジナル以外で個人的におすすめしたいのは、聘珍樓の黒酢すぶたですね。黒酢すぶたは黒酢のコクがちゃんとあって、衣がしっかりしているんです。解凍しても衣がふにゃっとしていなくて、衣の歯ごたえがしっかり感じられ、肉の旨味がじわっとあふれてくる、この本格感がたまりません。

 

 

 

―では、これから取り入れたいメニューや料理はありますか?

 

朝倉:現在、スペインレストランにお声がけしているところです。あとはオリジナルのエスニックメニューを考えており、一度試作品をつくり、現在修正している段階です。

 

山川:将来的には、これまで地方店にいた経験を活かして、地方にもたくさんある美味しい名店をご紹介できたら良いなと思います。

 

西川:世界の料理は注目されていますよね。最近は韓国料理の冷凍も増えています。

 

 

―西川さんに伺いたいのですが、ラクリッチに関わることで百貨店の強みや可能性をどう感じましたか?

 

西川:やはり、百貨店ならではのクオリティの高いメニューを提供できることは強みですね。デパ地下のお総菜売場を見ていただければ一目瞭然の通り、百貨店バイヤーの目利き力はもちろん、百貨店のフィルターを通した味のクオリティ、見た目の良さ、百貨店ブランドは分かりやすく、それらが冷凍食品になるとなれば、お客様にも伝わりやすいと思います。

 

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―では最後に今後の展開や目標を教えてください?

 

 

朝倉:ブランド数・メニュー数については、数値目標は開示していないですが、新規開拓をやり続けること、永遠にやり続けることが大切だと考えています。このサービスに共感してくれるブランド、工場などともしっかりとネットワークを築いていきます。

 

岡崎:事業開発の視点でいうと、日本を代表する食のプラットフォーマーを狙うつもりで、お客様に選んでもらえるサービスにしていきます。

 

 

PROFILE

  •  岡崎 路易

    株式会社大丸松坂屋百貨店 DX推進部 専任部長

    ラクリッチ事業責任者


    2004年に株式会社大丸入社。大丸神戸店でメンズファッション売場担当等を務めたのち、、 2008 年より本社業務統括室財務担当。 2015 年からは、持株会社である J. フロント リテイリング株式会社で経営戦略統括部経営企画部 MA事業提携チームで勤務。2018年に大手 IT 企業へ入社したのち、 2020年の株式会社大丸松坂屋百貨店へ再入社後は現職にて全社の DX 推進を担当。

  • 朝倉 宏二

    株式会社大丸松坂屋百貨店DX推進部 バイヤー

    ラクリッチ事業 商品調達責任者 


    1987年、㈱横浜松坂屋入社。食品畑を17 年間歩み、大丸・松坂屋店舗にて店舗マネジメント、ブランドリーシングを務める。豊富な食品分野での経験を活かし、新規事業冷凍グルメ宅配サービス「ラクリッチ」の商品調達責任者に抜擢される。

  • 山川 太央
    株式会社大丸松坂屋百貨店DX推進部 バイヤー
    ラクリッチ事業

     

    2018年、株式会社大丸松坂屋百貨店入社。松坂屋静岡店で菓子売り場や食品催事担当の業務を経験し、大丸下関店へ異動。食品担当としての業務だけでなく、現地のテレビ番組に出演しPR活動を行う。2022年にDX推進部へ異動し、商品調達担当の一員としてラクリッチ事業に参画する。

  • 西川 剛史

    ベフロティ株式会社 代表取締役
    冷凍生活アドバイザー 冷凍食品開発コンサルタント

     

    高校生の頃より、冷凍食品に興味を持ち、冷凍食品会社に就職。冷凍食品の商品開発などの経験を生かし、現在は冷凍専門家として活動中。 冷凍王子としてテレビ番組「マツコの知らない世界」「ヒルナンデス!」「王様のブランチ」「 NHKごごナマ」など、その他テレビ、雑誌などに多数出演。さらに、年間約 1,000 品の冷凍食品を試食し、累計 1 万品以上の冷凍食品を実食している経験を活かし、冷凍食品開発コンサルタントとしても活動。中小企業や地方の冷凍食品メーカーなどへ、冷凍食品の商品開発支援に精力的に取り組んでいる。著書は「いますぐ食べたい!冷凍食品の本(自由国民社)」