2023.02.20
地元企業×松坂屋×パルコのクラウドファンディングサポートプロジェクトで地域の未来を紡ぐ
取材・執筆:原田直子 編集:末吉陽子 撮影:牧田奈津美
グループ内の垣根を超えた、リアル店舗とクラウドファンディングの融合
左から|パルコ・堀岡幸喜 | アオイネオン・荻野隆 | 松坂屋静岡店・木庭英之 |
――最初に「しずおかMIRUIプロジェクト」の概要を教えてください。
木庭 英之(以下、木庭):「しずおかMIRUIプロジェクト」は、地域活性につながる新しい挑戦を志す静岡県内の企業や個人を支援・応援する取り組みです。具体的には、静岡に密着した百貨店「松坂屋静岡店」とショッピングセンター「静岡PARCO」、パルコのクラウドファンディング「BOOSTER」、静岡のメディア「静岡新聞社・静岡放送」が協同し、資金調達とPR活動の両面からプロジェクトの成功をサポートしています。ちなみに、MIRUI(みるい)は、静岡弁で「若い、未熟」を意味する言葉で、地域の方々と一緒に成長していきたいという想いを込めてプロジェクトの名前にしました。2020年1月に始動し、2023年1月現在までに30プロジェクトを支援しています。
――クラウドファンディングとリアル店舗の融合という、グループを横断した取り組みが特徴的ですね。プロジェクト立ち上げの背景、きっかけについて教えてください。
堀岡 幸喜(以下、堀岡):「BOOSTER」というクラウドファンディングを展開する中で、オンラインで完結するサービスをリアルの世界とどうつなげていくか、というのが重要なテーマでした。一方、JFRグループとしては全国各地に百貨店やパルコという実店舗があり、地域の方々に愛され続けるためには、地域との共生が大きなテーマです。この2つのテーマを融合させれば、今までにないサービスや社会貢献のかたちがつくれるのではないか、と考えたのがそもそものはじまりです。
木庭:松坂屋静岡店では、地域と共生し、価値ある体験を提供する「地域共生型百“価”店」をビジョンに掲げています。百貨店として物を売るだけにとどまらない活動を模索する中で、以前から静岡PARCOやクラウドファンディング担当の堀岡さんと交流してきました。そのため、松坂屋・PARCO・BOOSTERの連携が生まれたのは自然な流れでしたね。
プロジェクトをきっかけに全国へと羽ばたく「ネオンアート」
――アオイネオンさんは、「本物のネオンをアートとして再生させたい」という企画で、「しずおかMIRUIプロジェクト」に参加されました。参加の経緯について教えていただけますか?
荻野 隆さん(以下、荻野):かつて街を彩っていた「ネオン」は、職人がガラス管を1本ずつ曲げて仕上げていた製品です。しかし、時代の流れに伴い今ではほとんどがLED看板に変わり、職人の数も激減しています。この職人技を未来に残す術はないかと考え生まれたのが、「エンターテイメントやアートの世界での再生」です。2017年から細々と活動をはじめ、2019年に「ネオンアート」に乗り出しました。
アートとして広めていくには一般の方に向けた展覧会が必要でしたが、もともとBtoBの企業ですからノウハウがなく、なかなか実現できずにいました。そんな折、松坂屋静岡店さんから、改装のタイミングということでスペースをお貸しいただけることになったのです。さらに、PR活動に苦戦する中で、BOOSTERの堀岡さんをご紹介いただき、しずおかMIRUIプロジェクトへの参加につながりました。
2020年12月に松坂屋静岡店で「大ネオン展」を開催し、これが契機となり、現在は東京タワーで大ネオン展を開催するに至り、実際にビジネスにもつながっています。
大ネオン展from CYBER NEON CITY2022 撮影:REI KINOSHITA 提供:アオイネオン(株)
――「しずおかMIRUIプロジェクト」に参加されて、最もよかったと感じるのはどのような点でしょうか?
荻野:松坂屋静岡店という駅前の一等地で展覧会を開催できたこと、クラウドファンディングでつながった全国の方から応援メッセージをいただけたことです。売上がほとんどなく頓挫する可能性もあった中、可能性を信じて邁進できたのは、ひとえにプロジェクトを通じて知り合った方々の励ましの声のおかげです。そして、社内で企画を通せたのは、松坂屋さんとパルコさんというビッグネームが味方についていることが非常に大きかったと感じています。
大切にしたのは事業者の情熱と、百貨店基準の品質管理
――「しずおかMIRUIプロジェクト」はこれまでに30のプロジェクトを支援し、参加した事業者の方から感謝の声も届いていらっしゃいますね。地域の方々に支持される理由について、どのようにお考えでしょうか?
堀岡:BOOSTERにてクラウドファンディングを起案される事業者様は「資金を調達したい」ということだけでなく、「プロジェクトを多くの人に知ってほしい」という思いをもっています。クラウドファンディングというと、資金調達のためだけのツールという印象をもっている方もいるかもしれませんが、実態はECサイトのように、広く商品をPRできる側面も持ち合わせているんですね。
特にBOOSTERは、商品やサービスを手掛けている背景や人の想いにフォーカスして、サイトのページを構成しています。そのため、ストーリーを読んで心を動かし、「この企業を応援したい」「商品を購入したい」と思ってくださる方が多いです。この点はBOOSTERの大きな特徴だと思います。
また、「しずおかMIRUIプロジェクト」は、静岡の未来につながる挑戦を応援する取り組みの一環なので、参加していただく企業の商品やサービスが、どのように地域貢献につながるのかという点を非常に大切にしました。
木庭:松坂屋静岡店では、ブース活用や店頭告知などリアル店舗ならではのPR活動を行うとともに、事業者様が販売する商品の品質チェックも手がけている点が特徴です。JFRグループには消費科学研究所があり、ここと連携して、商品の品質管理や表示が適切かどうかをチェックしています。
百貨店でのPRと品質チェックの部分は、事業者様独自で行いにくいところであり、通常のクラウドファンディングでもタッチしにくい部分ですから、「しずおかMIRUIプロジェクト」ならではの強みだと思っています。実際に、チェックを受けて苦労された事業者様もいらっしゃいますが、販売をスタートされてからは「すごくためになった」と喜んでくださっています。
蒔いた種からどんな花が咲くだろう。可能性は無限
アオイネオン(株)のネオンは、リニューアルした松坂屋静岡店のフロアサインにも採用され話題となりました。
――しずおかMIRUIプロジェクトを経て、社内外の反応に変化はありましたか?
堀岡:当社グループには「JFR発明アワード」というプレゼンテーション大会があり、2020年度には1万件を超える応募の中から、しずおかMIRUIプロジェクトがグランプリを受賞しました。この受賞をきっかけに、JFRグループの店舗から「BOOSTERと組んで何かはじめたい」という声が挙がり、実際に実現したプロジェクトもあります。たとえば、大丸京都店が京都の魅力を高めるために「土方歳三像建立プロジェクト」を立ち上げ、資金調達とPRにBOOSTERを活用してもらいました。
コロナ禍で行動制限を経験し、かつサステナビリティが重視される中で、これまで店の方針や制約事項などでできなかった取り組みも、クラウドファンディングという異なる枠組み、オンラインコミュニケーションを活用すれば突破できるのではないか、という考えが一気に浸透したと感じています。
木庭:グループ内からの声も然り、プロジェクトに参加した事業者間でコラボが生まれるなど、横のつながりが生まれていることがうれしいですね。地域に愛されていく百貨店というのを考えていくと、やはりクラウドファンディングだけで終わるのではなく、ここで生まれたストーリーを次につなげていくことが大事です。蒔いた種がどんな花を咲かせるのかわからないですが、かなり可能性を秘めていると感じています。地域に眠っている魅力的なコンテンツがスポットライトを浴びるきっかけをつくれるよう、われわれ担当者レベルでも熱意を伝え続けていくことが、とても重要な要素だと感じています。
堀岡:「しずおかMIRUIプロジェクト」は、走りながらかたちにしてきた企画です。人事異動でスタッフの入れ替わりもありましたが、3年続けてこられたのは関係者の熱意の賜物です。プロジェクトを達成したら終わりではなく、継続的な支援につながるよう、着実に前に進んでいきたいですね。
PROFILE
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堀岡 幸喜
株式会社パルコ ソーシャルイノベーション事業部
プロジェクトリーダー
パルコが運営するクラウドファンディングサービス「BOOSTER(ブースター)」を通じて、地域活性につながる仕掛けづくりやプロジェクトの運営に携わる。「しずおかMIRUIプロジェクト」では、プロジェクト起案者に対する戦略アドバイスやWebサイトのディレクションなどを担当。
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木庭 英之
株式会社大丸松坂屋百貨店 松坂屋静岡店
販売企画
「地域共生型百“価”店」をテーマに、自店舗のセールスプロモーションにとどまらず、静岡の事業者と全国の消費者をつなぐ地域コミュニケーターとして活動する。「しずおかMIRUIプロジェクト」では、ブース活用や店頭告知などを担当。
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荻野 隆
アオイネオン株式会社 事業企画部
部長 兼 CSR統括マネージャー
大ネオン展 プロデューサー
屋外広告・看板のデザインから施工までを一貫して行う創業70余年・静岡発の企業アオイネオンで、新しい市場の開拓や新規ビジネスの立ち上げに携わる。「しずおかMIRUIプロジェクト」への参加を通じて、展覧会の企画・運営、商品開発などを実現。